「あ、ここ、サポート入りますね」
「お願いします」
「きゃあ!何でこんな罠!」
画面にはGAMEOVERの文字。なつめはため息をつきながらコントローラーから手を離した。そうしてそのままふっと笑って肩をすくめる。その声に、夕凪も自然と目を細めた。
日曜日の午後。普段ならサークルメンバーが自然と集まる、温かな日差しの感じられる室内。珍しく二人だけとなった時間を夕凪となつめは過ごしていた。
「今日は、井上くんとか紫苑さん、来れなかったんですよね?」
「ええ、急なバイトと別の活動が入ったとかで。……なので二人きりですけど、退屈ではありませんか?」
「ううん、全然。むしろ代表とまったりゲームできる機会って貴重なので……ラッキーだなって」
なつめは、そう言って少しだけ首をかしげた。
くしゃっと笑うその顔が、子どものように屈託がなくて。けれどその無邪気さが、ふいに心をかき乱す。
夕凪は目を丸くした後、軽く咳払いをした。なつめの口から出てくる言葉は、どこか素直で照れがなく、思わずドキリとさせられる瞬間があった。でも、そこに深い意味なんてないこともよく分かっている。彼女はただ思ったことを口にしているだけなのだ。そんな時間を尊く心地よいものだと感じている自分がいることを知っていた。
「じゃあ、ラッキーついでに二面のボス攻略を手伝ってもらっても良いですか?」
「はい、夕凪さんのために頑張ります」
パチンと小さく手のひらを合わせて気合いを入れたなつめの横顔。指先が揃う音のあとに、彼女の睫毛がふわりと動くのが見えた。その何気ない仕草が、どうしようもなく目を惹いた。夕凪は、そこでようやく思う。
いつからだろう、彼女が自然と隣にいるようになったのは。サークルに参加したばかりの頃は、もう少し距離があったはずなのに。今ではこうして隣にいてくれることがむしろ自然に感じられる。休憩時間に話すたわいもない会話も、全部がしっくりくる。
「夕凪さん、どうしました?」
「いえ、なんだか落ち着くなと思っただけです」
「それって……私のことを見てですか? 珍しい~」
「いつも見ていますよ。あなただって、サークルの一メンバーなのですから」
夕凪が大切にしていること。それは、全員に目を向けること。それを常に心がけていた。
全員に目を向けることで、トラブルの回避は勿論、信頼関係を得ること、そして、サークルを上手く運営することができるだろう。そしてそれには、君が適任だ。そう言ってこの場を託してくれた創始者の言葉を、夕凪は今でも時折思い出す。
サークルメンバーとして目を向けている、そんな言葉でさえ、なつめは嬉しそうに笑っていた。それが何故か胸をくすぐるような柔らかさを持って夕凪に安心感を与えている。その笑顔は、無防備で、けれどまっすぐだった。誰かに向けられた笑顔を、自分が受け取っている。ただそれだけのことが、なぜこんなにも安心するのか、自分でもまだわからなかった。
特別なことはない、でも穏やかで満たされた空気。カーテン越しに午後の日差しがふたりの手元をあたためていた。二人の時間はまだ、そっと流れていく。
