学パロ時空―暗室にて―

現像、停止、定着。流し台の横に三種類の液体が入っていることを確認して、部屋の明かりを落とす。それからすぐに、隣にいた先輩が別の明かりをつけると、薄暗い部屋が赤茶の独特な色で染まった。

「シャルル先輩。今回のは自信作なので、見ていてくださいね!」

「ええ。リツカが跳び跳ねながらネガを持ってきたときにはヒヤヒヤしましたが、それだけいいものが撮れたのだと思うと楽しみでして。今日はタイマーで合図を送ればいいのですよね?」

「はい、よろしくお願いします」

写真の印刷には手間がかかる。特に白黒写真の印刷は、写真が黒くなっていくことを止める停止液と、写真用紙にそれを固定する定着液。現像液もだけれど、それぞれの液体につける時間が決まっており、繊細なものとなっている。それゆえに立香やサンソンの所属する写真部では、二人一組となって、片方が時間を図り、もう片方が実際に作業を行う形となっていた。

「では、現像液から取り出して停止液につける瞬間にタイマーを押しますので、つける時には合図をくださいね」

「はい。じゃあ、まずは準備準備」

「ここで反転したものですが作品を少し見れるのが楽しみなのですよね」

「分かる。でも、準備で写真の粒々した部分にピントを合わせるのが大変で」

「……手伝いましょうか?」

「いいの?っていいたいところだけど、先輩ももう引退になりますし、そろそろ私も苦手を克服しないと」

「そう、ですね。ですが、感慨深いですね。今年入ってきてくれた部員は貴女一人で、最初は見ていられないぐらいでしたのに、今では来年の後輩指導のためにと、一人で頑張っていらっしゃる」

「ちょっと失礼な言葉が先輩の方から聞こえてきた気がするけど、感慨深いって、なんだかおじいちゃんみたいですね」

「本当のことでしょう?初めて白黒写真に触れたときは、ネガに直射日光を当ててダメにしてしまったり、酢酸を頭から被って一週間ほどお酢臭い制服のまま学校を歩いていたではないですか」

「まあ、確かに本当のことだけど……とりあえず、作品を作りましょうか」

「ええ、ではよろしくお願いします」 こうやって、いつもの現像が始まるのだった。