精神科のポスター
花火が打ち上がる中、サークルの輪がいつもより少しだけ華やかだった。「えー!紫苑さん?!」「うわ、久しぶり」「ていうか来るなら言ってくださいよー!」 そんな声の中で、ふわりと現れた彼女は、前より少しだけ落ち着いた雰囲気を纏っていた。髪は上に…
Novelお嬢さん、俺と結婚してくれませんか?,一次創作,余白の庭シリーズ,遼輝
夏の夜の灯火
夏の夜の暑さを簡単に考えていたわけではない。それでも思ったよりずっと暑くて、着てきた浴衣が汗で重くなっている気がする。それに多少後悔しながらも、ゲームサークルで場所取りをしてレジャーシートを敷いていたその場所に、輝星は足をくずして座ってい…
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デートへのお誘い
「というわけで、来週末、サークルで花火を見に行きませんか?」 夕凪の提案に、サークル内の空気が一気に和やかになった。「おお!やる?」「屋台あるところが良いな~」「カメラ持っていこうかな」「あ、場所取り任せてください」 みんなが盛り上がる中、…
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好きという気持ち
検索窓に『朝比奈遼』と入力しかけた指を、輝星は思わず止めていた。 ……何やっているんだろう、私。でも、やっぱり気になる。彼の名前を入れて検索することが、どこかいけないことのように思える自分がいた。まるで「私、あなたに夢中です」と宣言してい…
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彼以外との接触
手が震えていた。 いつものサークルの活動中。夕凪の手がふと触れただけで、輝星の身体が瞬間的に硬直し、逃げるように一歩下がった。「……すいません、驚かせてしまいましたか?」 夕凪はいつもの丁寧な口調で謝る。輝星の事を攻めるでもなく、気まずそ…
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偶然の接触
その日、怖くないと思ったことが衝撃的だった。 いつものように活動を終えて、荷物をまとめていたときだった。輝星が落としたUSBメモリを遼が拾って差し出す。「これ、輝星ちゃんの?」 指先がほんの数センチのところまで近づいた。いつもなら、輝星の…
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ふとした時の安心感
彼のことは、はっきり言って怖かった。顔がどうだとか、性格がどうだとかではない。『男』というだけで、身体が固まる自分がいることを、私はよく知っている。けれど――最近の朝比奈さんは、何かが違った。前みたいに急に距離を詰めてきたり、気安く触れて…
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予測可能な関係性
ページの間に挟まれた付箋が増えていく。遼は紫苑から借りた心理学の本を、寝る前に数ページずつ読み進めていた。『トラウマ反応とは、課外でなく環境に反応している事が多い』『安心の再構築には、対話よりもまず予測可能な関係性が必要』 なるほど、と遼…
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心理学の本
遼はサークルの空気にすっかり慣れていた。なつめはよく笑うし、矢野や井上ともそれなりに打ち解けてきた。 だけれど、彼女だけは変わらない。 輝星は、必要以上に遼に話しかけることはないし、遼から見て、自身の存在をどう見ているのかもよく分からなか…
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輝星の絵
誰かの絵を描くとき。遼はまず、線を観る。輪郭の柔らかさ、眉の角度、睫毛の流れ。その人が今までどんな風に笑い、どんな風に泣いてきたか。全てが、顔のどこかに滲んでいる。 遼から見て、彼女――輝星はとても複雑だった。 視線は強い。けれど、そこに…
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男性恐怖症
遼の初めてのサークル参加から数日。少しずつ雰囲気にも慣れてきた頃であった。その日も一通り作業が終わって和やかな空気の中で雑談が始まる。遼はなんとなく隣に座っていた輝星に手を伸ばした。「髪の毛のここ、ごみが付いてるよ?」 なつめにもするよう…
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プロポーズ
その日の遼の予定は、妹と昼食を摂った後に久々に帰ってきた街をふらつくというものである。滞在先の家族の用事はすでに済ませ、遼は、せっかくだからと妹孝行として一緒に歩いていた。 なつめは今日もよくしゃべるし、よく笑う。目の端に出来た小さなシワ…
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