紫スミレ
「うふふふふ、そうよね」「そうね、本当に」 薔薇が咲き誇る庭に、白いテーブルと椅子。その椅子に座っているのは3人の婦人。いずれもこの庭を所有している主人の娘達であった。世間話をしつつ、時に笑い合いながら紅茶に口をつける。紅茶の中には砂糖漬け…
Novel#10m_wri,一次創作
行列
大量のフラッシュと共に花束を差し出される。それ卯を受け取ってお辞儀を深く行うと、さらにフラッシュが焚かれる。フラッシュの光によってかすみ草の影がちらほらと動く様を見て、私は昔懐かしい光景を思い出していた。 確か小学生の頃だっただろうか。今…
Novel#10m_wri,一次創作
おにぎり
真っ赤に色づく紅葉が一枚。窓の隙間からベッドに滑り落ちる。それに手を伸ばすのは、一世紀近くを生き抜いたしわくちゃな手であった。ベッドに眠っていたおばあさん――幸子は、年齢を感じさせない手つきでそれを拾い上げ、光に透かして見るように見つめた…
Novel#10m_wri,一次創作
記念日とクリームソーダ
今日は、カレンダーに載っているどんな祝日でもない。ただの平日。特別なセールもイベントもない、普通の一日。けれど――私たちにとっては、大切な記念日だった。 初めて触れられて、怖くなかった日。過去に何度も震えた指先で、あの日だけは、自分からそ…
Novelお嬢さん、俺と結婚してくれませんか?,一次創作,余白の庭シリーズ,遼輝
ハジメテ
身体が繋がった直後――。 俺は彼女の脚の間に、鮮やかな赤を見た。熱の残る吐息の中で、時間が止まる。それはあまりにも唐突で、あまりにも確かな痕で。指が震えた。喉が焼けるほどに熱くなった。 ……初めて、だったのか。理解した瞬間、胸が潰れそうに…
Novelお嬢さん、俺と結婚してくれませんか?,一次創作,余白の庭シリーズ,遼輝
夕日の中で
玄関を閉め、靴を脱いで。遼が部屋にいるという空気がじわじわと広がっていく。ベッドをソファ代わりに座って、彼がコンビニで買ってくれた飲み物を並べて、それを二人で飲んで、たわいもない話をして、笑って――。 でも、心臓の奥ではずっと、もう一つの…
Novelお嬢さん、俺と結婚してくれませんか?,一次創作,余白の庭シリーズ,遼輝
部屋へのお誘い
何気なく繋いでいる手の仲に、ずっと言えない言葉がたまっていた。別に特別なことをするわけじゃない。それでも、自分の場所に彼を招くというのは、私にとって――すごく、大きな事だった。 この前のカウンセリングで医師に言われた。「あなたがここまでは…
Novelお嬢さん、俺と結婚してくれませんか?,一次創作,余白の庭シリーズ,遼輝
原因
サークルの活動が終わったあと、参加者達はそれぞれの荷物をまとめて、ビルのエレベーターへ向かっていく。華やかだった空間が、嘘みたいに静かになった。その空気の中、会議室の扉の前。紫苑が遼に声をかけた。「遼くん、ちょっといい?」 声は落ち着いて…
Novelお嬢さん、俺と結婚してくれませんか?,一次創作,余白の庭シリーズ,遼輝
好きです
手を繋ぐのは、もう当たり前になっていた。歩幅を合わせてくれることも、無理に話しかけて来ないことも、時々こちらを見て、ふっと笑ってくれる事も――。 全部、心地よくて安心できる日々だった。でも、その当たり前の中に、私の中だけに積もっていった言…
Novelお嬢さん、俺と結婚してくれませんか?,一次創作,余白の庭シリーズ,遼輝
何もできなかった気持ち
サークル活動が終わったあと、片付けも終わり、他のメンバーがそれぞれ帰って行く中。サークルが入っているビルの裏手の少しだけ風の通るベンチで、二人の男が座っていた。 一人は静かで品のある長身。一人は前述の男よりさらに背の高い、どこか飄々として…
Novelお嬢さん、俺と結婚してくれませんか?,一次創作,余白の庭シリーズ,遼輝
何度も繋がれる手と想い
あれから、何度も手を繋いだ。サークル帰り、人混みの道、少しだけ冷たい夕方の空気の中で。 どちらともなく手が近づき、指先が触れるたびに、今なら良いかもしれないと思って、何も言わずに指を重ねた。最初のあの日だけが特別なわけじゃなかった。むしろ…
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