手を繋ぐ
今まではずっと、触れられることを怖がってきた。気づいたら避けていた。無意識に腕を引っ込めていた。男の人が近づいてくるたびに、脳が逃げろと警告していた。でも、今は――。 数歩先を歩く遼の手に、触れたいと思っている。それが、自分でも信じられな…
Novelお嬢さん、俺と結婚してくれませんか?,一次創作,余白の庭シリーズ,遼輝
二回目の受診
二度目の通院は、前よりも少しだけ気が楽だった。受付の手続きにも慣れて、診察室の扉を開ける。初診の時に震えていたあの手は、それよりも緊張していなかった。でも「今日はちょっとした検査をしましょうか」と言われたとき、輝星は不意に、背筋にひやりと…
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受診報告
「誰かに話したい」 その感情が、輝星の頭の中にずっと残っていた。昨日、クリニックからの帰り道。残暑の風の中で、自分の選んだ選択に少しだけ誇りを持てたような気がしていた。けれど、その頑張ったという気持ちを誰にも共有できないまま、一晩が過ぎた。…
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受診
知らない駅で降りるのも輝星には少しだけ勇気が必要だった。スマホで何度も地図を確認して、道を間違えて、ぐるぐるして、ようやくたどり着いたクリニックの看板を見上げる。 早めに向かっておいて良かったと思った。看板を見つけた時間は、ちょうど予約の…
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精神科のポスター
花火が打ち上がる中、サークルの輪がいつもより少しだけ華やかだった。「えー!紫苑さん?!」「うわ、久しぶり」「ていうか来るなら言ってくださいよー!」 そんな声の中で、ふわりと現れた彼女は、前より少しだけ落ち着いた雰囲気を纏っていた。髪は上に…
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夏の夜の灯火
夏の夜の暑さを簡単に考えていたわけではない。それでも思ったよりずっと暑くて、着てきた浴衣が汗で重くなっている気がする。それに多少後悔しながらも、ゲームサークルで場所取りをしてレジャーシートを敷いていたその場所に、輝星は足をくずして座ってい…
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デートへのお誘い
「というわけで、来週末、サークルで花火を見に行きませんか?」 夕凪の提案に、サークル内の空気が一気に和やかになった。「おお!やる?」「屋台あるところが良いな~」「カメラ持っていこうかな」「あ、場所取り任せてください」 みんなが盛り上がる中、…
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好きという気持ち
検索窓に『朝比奈遼』と入力しかけた指を、輝星は思わず止めていた。 ……何やっているんだろう、私。でも、やっぱり気になる。彼の名前を入れて検索することが、どこかいけないことのように思える自分がいた。まるで「私、あなたに夢中です」と宣言してい…
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彼以外との接触
手が震えていた。 いつものサークルの活動中。夕凪の手がふと触れただけで、輝星の身体が瞬間的に硬直し、逃げるように一歩下がった。「……すいません、驚かせてしまいましたか?」 夕凪はいつもの丁寧な口調で謝る。輝星の事を攻めるでもなく、気まずそ…
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偶然の接触
その日、怖くないと思ったことが衝撃的だった。 いつものように活動を終えて、荷物をまとめていたときだった。輝星が落としたUSBメモリを遼が拾って差し出す。「これ、輝星ちゃんの?」 指先がほんの数センチのところまで近づいた。いつもなら、輝星の…
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ふとした時の安心感
彼のことは、はっきり言って怖かった。顔がどうだとか、性格がどうだとかではない。『男』というだけで、身体が固まる自分がいることを、私はよく知っている。けれど――最近の朝比奈さんは、何かが違った。前みたいに急に距離を詰めてきたり、気安く触れて…
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予測可能な関係性
ページの間に挟まれた付箋が増えていく。遼は紫苑から借りた心理学の本を、寝る前に数ページずつ読み進めていた。『トラウマ反応とは、課外でなく環境に反応している事が多い』『安心の再構築には、対話よりもまず予測可能な関係性が必要』 なるほど、と遼…
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