わたしも、夕凪さんが好きです
夕凪の告白から、数日が経った。 なつめは、あの場で返事をしなかった――というより、できなかった。胸がいっぱいで、喉が詰まってしまって、声にならなかったのだ。でも自分の中に揺らぎはなかった。あのときの夕凪の声、まっすぐに向けられた視線、言葉…
Novelつないだ手、最初の一歩,一次創作,余白の庭シリーズ,凪なつ
人生ゲーム
「お金貯めて、子ども3人。すごい、夕凪さん、めちゃくちゃ堅実な人生になってる」「ゲームですから。選択肢が限られているなら、できるだけリスクは避けたいんです」「うーん、夕凪さんらしい。……安定志向なんですね?」「そう言われることは、よくありま…
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朝比奈さんが好きなんですね
いつものようにパソコンの前に座り、プロジェクトの資料を整えていた夕凪未来は、ふと手を止めた。静かなオフィス。昼休憩が終わったばかりのはずなのに、思考の奥がひどく騒がしい。 気がつけば、さっきから画面の文字がまったく頭に入っていなかった。タ…
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未来の事、好き?
「なつめ、ちょっとさ、喫茶でも行かない?」 金曜の昼休み。LINEに届いた輝星からの短いメッセージに、なつめは一瞬きょとんとしてから、『うん、いいよ』と返信した。なんとなく、呼ばれる気がしていた気もする。 待ち合わせたのは、駅から少し離れた…
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触れそうになる手
カフェを出た夕方、街にはほんのりとしたオレンジ色の空が広がっていた。低く差し込む夕陽がアスファルトの上に長い影を落とし、風は少しだけ肌寒さを連れてくる。けれどその風さえも、今日のふたりにはやさしく感じられた。 なつめは小さく息を吐いた。隣…
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一人の青年と一人の女性として
待ち合わせは、午前十一時。まだ少し肌寒さの残る春の風が、通り過ぎるたびに頬をかすめていく。 私服姿で並ぶのは、ずいぶん久しぶりだった。「お待たせしました。朝比奈さん」「いえっ、わたしも今来たところです!」 軽く笑い合うその瞬間から、空気が…
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隣にいても、いいですか?
金曜の夜。仕事帰りのビル街には、オフィスの残光とコンビニの灯りがゆるやかに滲んでいた。にぎやかすぎず、静かすぎない空気の中で、なつめは立ち止まったままスマホの画面を見つめていた。「今日もお疲れさまです」「今度、少しだけお話できませんか?」…
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変わらずに在り続けること
夕凪未来は、自分の感情に疎い方ではなかった。むしろ、客観的に物事を見て、感情の動きにも整理をつけながら過ごす日々に慣れていた。けれど、それはあくまで整理できる範囲の話であって、どうしようもなく胸に残る空白には、まだ名前を与えられずにいた。…
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彼女の隣にいたい理由
「合格、しました」 その報告は、サークル活動の帰り際、ふいに差し出された一枚の紙とともにだった。そこに記されていたのは、見慣れたロゴとともに印字された四文字。『基本情報技術者試験 合格』。なつめの手元で、白い紙はほんの少しだけ震えていた。「…
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様子が違う
最近、朝比奈なつめの様子が少しだけ違っている――そう感じたのは、夕凪未来がふとした瞬間に目を向けたときだった。 視線が合ったとき、ふいっと逸らされる。呼びかければ返事はあるが、ほんの少し声のトーンが高くなる。距離を取られるわけではないのに…
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変わってしまったのは
『……いい男の人だよね』 紫苑の何気ないその一言が、なつめの心にいつまでも残っていた。 何度も反芻するたびに、その言葉がただのからかいではなく、自分が今まで見落としていた視点を突きつけるようなものだったと気づく。夕凪未来は、サークルの代表で…
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男のひと
昼休みの終わり、サークル室の扉をそっと開けたなつめは、手に一枚のカーディガンを抱えていた。淡いグレーの柔らかな生地は、丁寧にたたまれていて、その端には小さくシワが残っている。それは、夕凪未来のものだった。 直接、お礼を言えるかな。……起き…
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