記念日とクリームソーダ
今日は、カレンダーに載っているどんな祝日でもない。ただの平日。特別なセールもイベントもない、普通の一日。けれど――私たちにとっては、大切な記念日だった。 初めて触れられて、怖くなかった日。過去に何度も震えた指先で、あの日だけは、自分からそ…
Novelお嬢さん、俺と結婚してくれませんか?,一次創作,余白の庭シリーズ,遼輝
ハジメテ
身体が繋がった直後――。 俺は彼女の脚の間に、鮮やかな赤を見た。熱の残る吐息の中で、時間が止まる。それはあまりにも唐突で、あまりにも確かな痕で。指が震えた。喉が焼けるほどに熱くなった。 ……初めて、だったのか。理解した瞬間、胸が潰れそうに…
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夕日の中で
玄関を閉め、靴を脱いで。遼が部屋にいるという空気がじわじわと広がっていく。ベッドをソファ代わりに座って、彼がコンビニで買ってくれた飲み物を並べて、それを二人で飲んで、たわいもない話をして、笑って――。 でも、心臓の奥ではずっと、もう一つの…
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部屋へのお誘い
何気なく繋いでいる手の仲に、ずっと言えない言葉がたまっていた。別に特別なことをするわけじゃない。それでも、自分の場所に彼を招くというのは、私にとって――すごく、大きな事だった。 この前のカウンセリングで医師に言われた。「あなたがここまでは…
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原因
サークルの活動が終わったあと、参加者達はそれぞれの荷物をまとめて、ビルのエレベーターへ向かっていく。華やかだった空間が、嘘みたいに静かになった。その空気の中、会議室の扉の前。紫苑が遼に声をかけた。「遼くん、ちょっといい?」 声は落ち着いて…
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好きです
手を繋ぐのは、もう当たり前になっていた。歩幅を合わせてくれることも、無理に話しかけて来ないことも、時々こちらを見て、ふっと笑ってくれる事も――。 全部、心地よくて安心できる日々だった。でも、その当たり前の中に、私の中だけに積もっていった言…
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何もできなかった気持ち
サークル活動が終わったあと、片付けも終わり、他のメンバーがそれぞれ帰って行く中。サークルが入っているビルの裏手の少しだけ風の通るベンチで、二人の男が座っていた。 一人は静かで品のある長身。一人は前述の男よりさらに背の高い、どこか飄々として…
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何度も繋がれる手と想い
あれから、何度も手を繋いだ。サークル帰り、人混みの道、少しだけ冷たい夕方の空気の中で。 どちらともなく手が近づき、指先が触れるたびに、今なら良いかもしれないと思って、何も言わずに指を重ねた。最初のあの日だけが特別なわけじゃなかった。むしろ…
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手を繋ぐ
今まではずっと、触れられることを怖がってきた。気づいたら避けていた。無意識に腕を引っ込めていた。男の人が近づいてくるたびに、脳が逃げろと警告していた。でも、今は――。 数歩先を歩く遼の手に、触れたいと思っている。それが、自分でも信じられな…
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二回目の受診
二度目の通院は、前よりも少しだけ気が楽だった。受付の手続きにも慣れて、診察室の扉を開ける。初診の時に震えていたあの手は、それよりも緊張していなかった。でも「今日はちょっとした検査をしましょうか」と言われたとき、輝星は不意に、背筋にひやりと…
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受診報告
「誰かに話したい」 その感情が、輝星の頭の中にずっと残っていた。昨日、クリニックからの帰り道。残暑の風の中で、自分の選んだ選択に少しだけ誇りを持てたような気がしていた。けれど、その頑張ったという気持ちを誰にも共有できないまま、一晩が過ぎた。…
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受診
知らない駅で降りるのも輝星には少しだけ勇気が必要だった。スマホで何度も地図を確認して、道を間違えて、ぐるぐるして、ようやくたどり着いたクリニックの看板を見上げる。 早めに向かっておいて良かったと思った。看板を見つけた時間は、ちょうど予約の…
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