#10m_wri

紫スミレ

「うふふふふ、そうよね」「そうね、本当に」 薔薇が咲き誇る庭に、白いテーブルと椅子。その椅子に座っているのは3人の婦人。いずれもこの庭を所有している主人の娘達であった。世間話をしつつ、時に笑い合いながら紅茶に口をつける。紅茶の中には砂糖漬け…

行列

 大量のフラッシュと共に花束を差し出される。それ卯を受け取ってお辞儀を深く行うと、さらにフラッシュが焚かれる。フラッシュの光によってかすみ草の影がちらほらと動く様を見て、私は昔懐かしい光景を思い出していた。 確か小学生の頃だっただろうか。今…

おにぎり

 真っ赤に色づく紅葉が一枚。窓の隙間からベッドに滑り落ちる。それに手を伸ばすのは、一世紀近くを生き抜いたしわくちゃな手であった。ベッドに眠っていたおばあさん――幸子は、年齢を感じさせない手つきでそれを拾い上げ、光に透かして見るように見つめた…

桜の咲く季節に

「まもなく、電車がまいります。白線の内側に立って、お待ちください」 四十年間。桜が咲き誇る春の日も、三十度を超える暑さの日も、落ち葉でホームが埋もれかけた秋の日も、誰も来なくなるぐらい極寒の冬の日も。毎日同じような言葉をアナウンスしていた。…