彼女の隣にいたい理由
「合格、しました」 その報告は、サークル活動の帰り際、ふいに差し出された一枚の紙とともにだった。そこに記されていたのは、見慣れたロゴとともに印字された四文字。『基本情報技術者試験 合格』。なつめの手元で、白い紙はほんの少しだけ震えていた。「…
Novelつないだ手、最初の一歩,一次創作,余白の庭シリーズ,凪なつ
様子が違う
最近、朝比奈なつめの様子が少しだけ違っている――そう感じたのは、夕凪未来がふとした瞬間に目を向けたときだった。 視線が合ったとき、ふいっと逸らされる。呼びかければ返事はあるが、ほんの少し声のトーンが高くなる。距離を取られるわけではないのに…
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変わってしまったのは
『……いい男の人だよね』 紫苑の何気ないその一言が、なつめの心にいつまでも残っていた。 何度も反芻するたびに、その言葉がただのからかいではなく、自分が今まで見落としていた視点を突きつけるようなものだったと気づく。夕凪未来は、サークルの代表で…
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男のひと
昼休みの終わり、サークル室の扉をそっと開けたなつめは、手に一枚のカーディガンを抱えていた。淡いグレーの柔らかな生地は、丁寧にたたまれていて、その端には小さくシワが残っている。それは、夕凪未来のものだった。 直接、お礼を言えるかな。……起き…
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カーディガン
「ん、……あれ?」 ぼんやりとまぶたを持ち上げたとき、視界の端に淡いグレーの布が映った。肩に、何かがふわりとかかっている。指先でそっと触れると、それはほんのりと人肌のぬくもりを残したカーディガンだった。「これ、夕凪さんの……?」 まだ少し眠…
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知りたい気持ちと少しの寂しさ
サークル室に、夕方の陽が差し込んでいた。柔らかなオレンジ色の光が、カーテン越しにぼんやりと床を照らしている。空気は静かで、まだ少し冷たさを残した季節の匂いが、ほんのりと漂っていた。 その中で、なつめは机に突っ伏すようにして眠っていた。ペン…
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模擬問題
「あの、夕凪さん」 サークルの活動が一段落し、メンバーたちがひとりまたひとりと帰路についたあと、片付けをしていたなつめが、不意に声をかけてきた。小さく通る声。けれど、その背中越しに届く声は、どこか少しだけ震えているようで。夕凪は動きを止め、…
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見せない努力
週末の昼下がり。サークルの活動日でもないその日に、夕凪未来は近所の大型図書館の一角で調べ物をしていた。たとえば、『部下が話しかけやすい上司の条件』や『炎上案件を避けるためのマニュアル』。あるいは、『沈黙力』や『伝わる説明の技術』。夕凪が向…
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買い出し
「このファイルケース、仕切りがついてて便利そうですね。会計の書類整理に使えそうかも」「そうですね。あと、レシート保管用にポーチもあるといいかもしれません。中身が見える透明なものだと、確認しやすいので」 文具売り場の一角で、なつめと夕凪のふた…
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サークル定例会
「――以上で今年度のサークルの活動方針と、イベントスケジュール案の共有を終了します。では、役割分担の希望を聞きましょうか」 夕凪の穏やかな声が部室に響く。今日はゲームサークルの定例会議。春の新会員歓迎イベントを前に、毎年恒例の役員決めをおこ…
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自分の道を選ぶこと
週末の夕方。春ももうすぐ来るといった少しだけ肌寒さを感じる室内。ゲーム合宿の休憩時間。なつめはレモネードの入ったコップを片手に、サークル共有の本棚を何気なく眺めていた。 TRPGのルールブック。誰かが持ってきたアニメ関係の雑誌、同人誌。そ…
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友達でサークルメンバーで
「あ、ここ、サポート入りますね」「お願いします」「きゃあ!何でこんな罠!」 画面にはGAMEOVERの文字。なつめはため息をつきながらコントローラーから手を離した。そうしてそのままふっと笑って肩をすくめる。その声に、夕凪も自然と目を細めた。…
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