Novel

男のひと

 昼休みの終わり、サークル室の扉をそっと開けたなつめは、手に一枚のカーディガンを抱えていた。淡いグレーの柔らかな生地は、丁寧にたたまれていて、その端には小さくシワが残っている。それは、夕凪未来のものだった。 直接、お礼を言えるかな。……起き…

知りたい気持ちと少しの寂しさ

 サークル室に、夕方の陽が差し込んでいた。柔らかなオレンジ色の光が、カーテン越しにぼんやりと床を照らしている。空気は静かで、まだ少し冷たさを残した季節の匂いが、ほんのりと漂っていた。 その中で、なつめは机に突っ伏すようにして眠っていた。ペン…

模擬問題

「あの、夕凪さん」 サークルの活動が一段落し、メンバーたちがひとりまたひとりと帰路についたあと、片付けをしていたなつめが、不意に声をかけてきた。小さく通る声。けれど、その背中越しに届く声は、どこか少しだけ震えているようで。夕凪は動きを止め、…

買い出し

「このファイルケース、仕切りがついてて便利そうですね。会計の書類整理に使えそうかも」「そうですね。あと、レシート保管用にポーチもあるといいかもしれません。中身が見える透明なものだと、確認しやすいので」 文具売り場の一角で、なつめと夕凪のふた…

サークル定例会

「――以上で今年度のサークルの活動方針と、イベントスケジュール案の共有を終了します。では、役割分担の希望を聞きましょうか」 夕凪の穏やかな声が部室に響く。今日はゲームサークルの定例会議。春の新会員歓迎イベントを前に、毎年恒例の役員決めをおこ…

自分の道を選ぶこと

 週末の夕方。春ももうすぐ来るといった少しだけ肌寒さを感じる室内。ゲーム合宿の休憩時間。なつめはレモネードの入ったコップを片手に、サークル共有の本棚を何気なく眺めていた。 TRPGのルールブック。誰かが持ってきたアニメ関係の雑誌、同人誌。そ…