Novel

ある晴れた日に

 マンチェスターの町並みを眺めつつ、車椅子を押す。アドニスはとうとう自力では歩けなくなってしまっていた。自動で動かせる技術も■■■■にはあると理解していたものの、そんなものは妖精國には無い。キイキイと小さくなるずいぶんと軽いそれを押しながら…

霜柱を踏んで

僕の命は来年まで保たない、それどころかこの 場所は彼女の夢。そして僕自身も彼女の夢である。 ことを理解していた。「■■■■■、霜柱が立っているよ」足下がシャリシャリと音を立てて崩れるのにバランスをとりつつ、霜柱を踏みつける。靴を履いているか…

冬飾り

「■■■■■、今日は雪が降っているね」「そうですわね。あまり冷たいところにいますと、体に障りますわよ?」「少しぐらい大丈夫だと思うけど。……あっ、あっちの家は何か飾り付けているみたいだね」 確か、クリスマスだったかな。汎人類史から流れてきた…

月が綺麗ですね

「月が、今日はきれいですね」「うん、そうだね」 屋敷へ帰り、服を着替える。お屋敷付きも今日は暇を出しているからアドニスと二人きり。そう思うといつもより腕によりをかけて料理を作りたくなり、数十分後にはお皿に乗りきらないほどの豪華な料理ができあ…

プロローグ

 ああ、私はなんということを。バーゲストは思う。ぐちゃぐちゃと音を立てて、口へと運んでいたものは何だったのか。なんだったのか、ではない。誰だったのか。思い出そうにももう姿さえも見えないぐらいぐちゃぐちゃになっている。それを先ほどまで口に運ん…

おにぎり

 真っ赤に色づく紅葉が一枚。窓の隙間からベッドに滑り落ちる。それに手を伸ばすのは、一世紀近くを生き抜いたしわくちゃな手であった。ベッドに眠っていたおばあさん――幸子は、年齢を感じさせない手つきでそれを拾い上げ、光に透かして見るように見つめた…

第四話 身体を交わす愛以外にも愛ってあるのではなくて?

 生まれて十八年の終末装置としての機能の備わったものに、存在とは反対の行為をさせる。それがいかに酷なことかと考える。考えて、そして考えても答えはでない。 廊下を歩きながら考える。やっぱり答えは出ないかとため息をつきながら角を曲がろうとしたと…