Novel

何もできなかった気持ち

 サークル活動が終わったあと、片付けも終わり、他のメンバーがそれぞれ帰って行く中。サークルが入っているビルの裏手の少しだけ風の通るベンチで、二人の男が座っていた。 一人は静かで品のある長身。一人は前述の男よりさらに背の高い、どこか飄々として…

何度も繋がれる手と想い

 あれから、何度も手を繋いだ。サークル帰り、人混みの道、少しだけ冷たい夕方の空気の中で。 どちらともなく手が近づき、指先が触れるたびに、今なら良いかもしれないと思って、何も言わずに指を重ねた。最初のあの日だけが特別なわけじゃなかった。むしろ…

精神科のポスター

 花火が打ち上がる中、サークルの輪がいつもより少しだけ華やかだった。「えー!紫苑さん?!」「うわ、久しぶり」「ていうか来るなら言ってくださいよー!」 そんな声の中で、ふわりと現れた彼女は、前より少しだけ落ち着いた雰囲気を纏っていた。髪は上に…

デートへのお誘い

「というわけで、来週末、サークルで花火を見に行きませんか?」 夕凪の提案に、サークル内の空気が一気に和やかになった。「おお!やる?」「屋台あるところが良いな~」「カメラ持っていこうかな」「あ、場所取り任せてください」 みんなが盛り上がる中、…

好きという気持ち

 検索窓に『朝比奈遼』と入力しかけた指を、輝星は思わず止めていた。 ……何やっているんだろう、私。でも、やっぱり気になる。彼の名前を入れて検索することが、どこかいけないことのように思える自分がいた。まるで「私、あなたに夢中です」と宣言してい…