Novel

彼以外との接触

 手が震えていた。 いつものサークルの活動中。夕凪の手がふと触れただけで、輝星の身体が瞬間的に硬直し、逃げるように一歩下がった。「……すいません、驚かせてしまいましたか?」 夕凪はいつもの丁寧な口調で謝る。輝星の事を攻めるでもなく、気まずそ…

ふとした時の安心感

 彼のことは、はっきり言って怖かった。顔がどうだとか、性格がどうだとかではない。『男』というだけで、身体が固まる自分がいることを、私はよく知っている。けれど――最近の朝比奈さんは、何かが違った。前みたいに急に距離を詰めてきたり、気安く触れて…

予測可能な関係性

 ページの間に挟まれた付箋が増えていく。遼は紫苑から借りた心理学の本を、寝る前に数ページずつ読み進めていた。『トラウマ反応とは、課外でなく環境に反応している事が多い』『安心の再構築には、対話よりもまず予測可能な関係性が必要』 なるほど、と遼…

プレゼント

 クリスマスイベントも無事に終わり、年末の慌ただしさが社内にも漂い始めたある日。夕凪未来は、休憩スペースに一足早く姿を現していた。手には、ラッピングされた小さな箱。 やがて、なつめが少し遅れてやってくる。「未来さん、お待たせしました――あれ…

初めての夜

 駅前のカフェで待ち合わせたのは、ちょうどお昼の12時。なつめが手を振ってくれるのが見えた瞬間、未来は自然に微笑んでいた。「こんにちは、なつめさん。今日はちょっと風が強いですね」「こんにちは、未来さんっ。……でも、寒くはないから、春らしい感…

ファーストキス

 付き合ってから三回目のデートは、映画とカフェ、そしてただ並んで歩くだけの、ゆるやかな一日だった。特別なサプライズがあったわけじゃない。ただ一緒に笑って、映画の感想を言い合って、少し先の未来をぼんやり話して。そんな穏やかさが、なつめにとって…