お祝い

「というわけで――改めまして、おふたりさん!」

「「おめでとー!!」」

 ぱんっ、と軽快なクラッカーの音が弾け、部室に一斉に拍手が広がった。紙コップのジュース、コンビニのお菓子、カラフルな紙吹雪。それらを囲むようにして、ゲームサークルのメンバーたちが笑顔でひしめき合っている。

 夕凪となつめが「正式に付き合っています」と報告したのは、ほんの数分前のことだった。にもかかわらず、準備万端だったかのように即座に即席のお祝い会が始まったのは、ある意味このサークルらしかった。

「いや~、代表がなつめちゃんのことでひとりでもやもやしてたの、マジで見ものだったっす」

 矢野が紙コップを掲げながら茶化せば、

「ルール作った当の本人が一番がっつり引っかかってるとか、いっそ清々しいよね。まあ、あのふたりは例外ってことでいいんじゃないですか?」

 井上もチップスをひとつ口に放り込みながら笑い出す。

「例外を許すことは、組織原理の崩壊に」

 と真面目に語り出しかけた夕凪の言葉を、紫苑がさっと遮る。

「だーめ。それは今日だけ封印! ここは“幸せでごめん会”なんだから、素直に祝われてくださいな」

「……はい」

 夕凪が咳払いをして目を伏せると、なつめが隣で申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません、みなさん。こんな形になってしまって、驚かせてしまったかも……」

「なに言ってんの、驚くっていうよりやっと言った!って空気だったでしょ」

 輝星が笑いながらカップを掲げた。

「でも、ちゃんと付き合ってますって報告してくれるの、ちょっと感動したよ。未来くんが、ルールは守るけど気持ちは曲げないタイプなの、みんな知ってるし」

「そこまで言われると、さすがに恐縮ですね……」

「代表、顔赤いっすよ?」

「それは照明の色のせいです」

「蛍光灯ですけど」

「……」

 部室に笑いが広がっていく。その中心にいるはずのふたりは、どこかまだそわそわしていたけれど――それを包む空気は、あたたかかった。

 なつめはふと、紙コップを見つめながらぽつりと呟いた。

「でも……こうしてみんなが、受け入れてくれて……すごく嬉しいです。ちょっと、ほっとしました」

「それはお互いさまよ、なつめちゃん」

 紫苑が、ふっと柔らかい声をかける。

「だって、なつめちゃんが代表のこと見て頑張ってるの、みんな知ってたから。参考書選びも、模試を一人で受けてたことも、ぜーんぶ見てたよ」

「……紫苑さん」

「ちゃんと選びたいって言ってたよね? あの時の言葉、本当に格好よかったんだから」

 その言葉に、なつめの目元がふわっと潤んだ。

「……ありがとうございます。ほんとに、ありがとうございます」

「それになつめちゃんが選んだのが、うちの代表でよかったよ。……顔、ちゃんと柔らかくなるもん、なつめちゃんがいると」

「……そうでしたか?」

「うん。全員、前から気づいてたよ?」

 ざわっと笑いが起こり、部室の空気がさらに和らぐ。誰かが「来月の合宿、ラブラブ班と独身班でバトルする?」と言い出せば、紫苑が即座に「わたしの知らないルールを作るな!」とツッコミを入れ、それにまた笑いが広がった。その空気の中で、なつめは、ひそかに夕凪の指先へと自分の指を重ねた。目立たないように、けれどしっかりと。それは、ひとつの恋が「ふたりだけの関係」から「みんなに見守られる関係」へと変わった証だった。そしてそれは、きっとこの先も続いていく。笑いと温もりに満ちた、この場所で。