もふもふ

むにむにとモフモフと。体温なんて感じないと思ったけれど、そこは妖精だからなのか、温かく感じて、そのまま眠りに誘われる。ふあっ、と小さく出た欠伸にくすくすと笑い声が聞こえた気がしたけれど、重たい瞼は上がらずに、目を閉じた。

「マスター?どこにいるんだろうか」

 時刻は午後五時半。六時から夜のミーティングがあるということで招集がかけられていたけれど、普段は三十分前から来ているような彼女の姿はなかった。まだ時間ではないけれど、心配でもあったので、食堂から探し始めたのであった。

「マスター、いらっしゃいますか?」

「ああ、マスターか。そこで眠っているよ?虫妖精たちと遊んでいる間に眠くなってしまったみたいでね」

「オベロン、でしたか。ありがとうございます」

 ベッドの端に座って、床で虫妖精や彼といつも一緒にいるカイコガのような妖精と寝る立香を眺めるオベロン。微笑ましいものを見つめるように口が弧を描いているけれど、どこか人を寄せ付けない、そんな雰囲気を感じさせつつ、こちらを向いて声をかけてきた。

「どういたしまして。確か六時からミーティングで、そのあとは君が警護担当になっていたね。交代で呼びに来てくれたのかな?」

「ええ。そんなところですが、マスターを起こさなくてはいけませんね」

 マスターに近づき、肩に手を触れる。そのまま、なるべく力をこめないように揺り動かそうとすると、後ろにいたオベロンが声をさらにかけてきた。

「んー、まだしばらく寝かせていてもいいんじゃないかな。それから、リツカって呼び方でもいいと思うよ。マスターって君の番だろう?」

 思わず振り返る。特に秘密にしているつもりはないけれど、あまり人に伝えていないことだったので、ここに来たばかりのオベロンにまで伝わっているとは思っていなかったのだった。

 特に必要もない焦りが浮かんでいる僕の顔を見た妖精王は、バチンと音がするように片目を閉じる。

「なに、心配はしなくていい。僕の目は色々視えてしまうし、マスターはとても分かりやすい。試しに昔からマスターと一緒に旅をしてきたものたちの名前をあげたら、君の名前でとても面白い反応してくれたからね」

 すぐ分かったよ、と笑顔を向けてくる。わかりやすいことや、望んでいることを素直に言えることはいいことであるけれど、素直すぎるのも、という話を今度しようかと考えていると、オベロンは立ちあがり、眠っている立香の隣にいた妖精に声をかける。

「じゃあ、僕たちはお邪魔になってしまうから部屋に帰ろうか。ブランカ、おいで?」

「別に、邪魔というわけでは」

「大丈夫。僕が君の愛おしい人を眺めていたことに悪い感情を持っていることも、眠っている彼女を早く起こさないといけないと考えていることもわかるからね。それに、起きたときに僕がいるよりは、君だけの方が彼女も喜ぶだろう」

 僕だってそこまで無粋なことはしたくないさ、退散退散っと。そう言いつつ、部屋を後にする彼をそのまま見送るが、時間が迫っていることを思い出し、立香の肩に置いたままの手に軽く力を込めて、彼女を揺り起こした。

「リツカ、リツカ」

「ん………?さん、そん?」  うっすらと開けられる目には、眠さからか涙が少したまっている。それを手で擦りながら欠伸をする彼女にかわいさを感じつつ、彼女の下で丸まって同じように眠っている虫妖精たちから、彼女を抱き上げたのだった。