エピローグ

「バーゲスト、もう大丈夫なの?」

「ええ、ご心配をおかけしました」

 目が覚めたら解剖をしようとする医者が目の前に。そんな状況から一週間。緋色の髪の主人は今日も丁寧に髪の毛を整えながら声をかけてくる。バーゲストは主人の言葉を肯定しながら、ヘアケア用品を並べていた。

 今日はモルガンや他の妖精騎士たち、それからアルトリア・アヴァロンも含めた妖精國出身のものたちとのお茶会である。妖精國出身、または関わりがあれば誰でも参加してよいとのことで、モルガンはハベトロット、メリュジーヌはパーシヴァル、アルトリアはガレスと村正をそれぞれ呼んでいた。だが、バーゲストは未だに誘う人物を見つけられず、今の主である藤丸立香と一緒に会場へ向かおうかと考えていたのだった。

「一週間近く眠っていたのには驚きましたが」

「私もそれは驚いたよ。だって、起きて一緒にトレーニングしに行こうとしたら眠ってるんだもん」

 もしかしてオベロンとかマーリンがいたずらしたのかなって思って二人に聞いたけど、どっちも何もしていないって言うし、本当にびっくりしたんだから。私はまあ、

よくレムレムしてるけど、サーヴァントも同じことになるんだって初めて知ったよね。

 椿オイルのケースを選んで、手に数滴乗せて伸ばす。バーゲストは自分がそれをやっても良いかと主に許可をもらって、オイルを髪へなじませた。

「それは本当に、申し訳ありませんでした」

「ううん、いいよ。……それで、良い夢は見れた?」

「……!ええ、とてもよい夢を」

「そっか」

 バーゲストは覚えていた。秋から始まり冬を越え、そうして春の風を一緒に感じ、夏の夜に見た幻想的な光景を。そうして一緒に過ごしていた愛おしいものと、最後に彼女が望んだことも。

「本当に、よい夢を。あんな終わりを迎えてしまった私にはもったいないほどのものでしたわ」

「それは、よかった」

 妖精騎士ガウェイン。恋多き妖精騎士。大喰らいのバーゲスト。彼女が迎えた彼女の愛おしいものとの最後、そして妖精國で見ていた長い夢は今はもう無い。けれど、彼女自身が

作った夢で、彼女自身が彼と過ごした時間は、彼女の記憶へと深く刻まれた。バーゲストの目の前の新しい主に仕える限り、もう決して忘れることはないだろう。

 さて、といいながらサイドテールを結んで黒いシュシュをつける。うまく結ばれているか藤丸立香は鏡をのぞき込んだ後、鏡越しにバーゲストと目を合わせてお礼を言うのだった。

「ありがとう、バーゲスト」  その言葉は、バーゲストの愛おしいものと重なるように心に響くのであった。