「というわけで、来週末、サークルで花火を見に行きませんか?」
夕凪の提案に、サークル内の空気が一気に和やかになった。
「おお!やる?」
「屋台あるところが良いな~」
「カメラ持っていこうかな」
「あ、場所取り任せてください」
みんなが盛り上がる中、輝星は少しだけ静かにしていた。
花火大会。嫌いではない。だけれど、人混みも、あの暑さも、人との距離感も苦手なものがあった。
けれど、それでも――。どこかで行きたいという気持ちもあった。多分、それは遼の隣にいることが出来る気がしたからで。
帰り際のオレンジがかった活動部屋。片付けを終えて、ノートを鞄にしまっていた輝星に声がかけられる。
「輝星ちゃん」
その声を聞いただけで、輝星の心臓は、ちょっとだけ跳ねた。振り返れば遼が立っている。少しだけ首を傾けるその姿勢が、なんだか待っているように思えた。
「あのさ、」
「うん」
「来週の花火大会、行く?」
「……うん。多分行くと思う」
その返事に遼はふっと微笑む。
「そっか。良かった。じゃあ俺もちょっと早めに行こうかなって思っててさ。人混み苦手そうな子とか、歩きづらそうにしている子がいたら、ちょっとは気を配れるし」
「……それって、私がいるからってこと?」
少し意地悪な事を聞いてしまったかなと輝星は思う。でも、彼は輝星の前で困ったように笑いながら――。
「んー、そうとも言うけど。……他にもそう言う子がいるかもしれないってことにしとこうかな」
言い方が、やっぱりずるい。でも、優しい。二人きりじゃない。でも、一緒にいようとしてくれている。
遼のとった距離感が、今の輝星にはちょうど良かった。
「うん。じゃあ、向こうで会いましょう」
「おっけ。……あ、雨が降らないといいね」
遼と別れた帰り道。夏も本格的にやってきて、四月には桜で満開だった道も、青々と茂っている。そんな並木道を見ながら、輝星は自分の指先を見つめていた。
手……繋ぎたい、なんて思ってしまった。そんなこと、言えないけれど。でも、彼と歩けるその距離が、こんなにも嬉しいと思ったこと。やっぱり私はもう……完全に好きなんだな。
輝星と別れた帰り道。遼はふと空を見上げた。
二人きりのデートはまだ早いかもしれない。だから、グループの花火大会に便乗する。けど、その中で自然に、さりげなく隣にいられるチャンスを探す。それが今の俺にできる、最大のアプローチだった。
言葉はまだ送れない。送る資格も無い。でも、気持ちは並んできている。
秋もそのうちやってくるだろう。でも、その前に。
花火のように彼女の気持ちが少しでも俺の方に咲いてくれたらいい。
そう思って、遼は目を細めるのだった。
