身体が繋がった直後――。
俺は彼女の脚の間に、鮮やかな赤を見た。熱の残る吐息の中で、時間が止まる。それはあまりにも唐突で、あまりにも確かな痕で。指が震えた。喉が焼けるほどに熱くなった。
……初めて、だったのか。理解した瞬間、胸が潰れそうになった。
事件の話は紫苑から聞いていた。彼女がどれだけの恐怖の中にいたのか、想像するだけで
腹が立った。その時点で俺は勝手に、彼女の初めては奪われたものだと思っていた。
でも――違った。
俺が今、彼女の奥へと進めたもの。そして、彼女の流したその赤が全てを証明していた。
彼女は、自分の意志で、過去ではなく、俺に、初めてを渡してくれたんだ。
感情が一気に溢れた。驚き。困惑。でも何よりも――良かったという安堵の感情が喉元までこみ上げた。汚されていなかった。そんな言い方をすべきではないと頭では分かっていた。それでも、心の底から思ってしまった。
無事だった。……守られてた……。
誰かが守ったんじゃない。彼女が、自分の大切を抱えてここまで来たんだ。それを、俺がもらってしまったんだ。その重みが、俺を震えさせた。
動かなくなった俺を感じて、彼女が目を開ける。そして、息を吸って、初めて俺の名前を口にした。
「……遼」
一文字がゆっくりと耳へ入り込む。甘くて、熱くて、優しい――恋の音だった。
もう一回言って、なんて冗談でも言えなかった。涙が出そうで、そんな余裕はなかった。
「……なんで今、それを言うかな……?」
顔を隠すように、額を彼女の肩に押しつけて、俺は震えてしまう声で言った。
「ずるいって。好きすぎるだろ……俺のこと」
彼女の指が、俺の髪をそっと撫でた。
「だって、遼のこと、ちゃんと好きだから」
俺はもう壊れてもいいと思った。それぐらい、今の彼女が、綺麗で、強くて、愛おしかった。
「俺に、初めてをくれて……ありがとう」
そう言った声は、きっと鼻が詰まっていたから不格好だっただろう。けれど、そんなことは考えずに、もう一度彼女を抱きしめた。
絶対に、守る。誰かに奪わせたりはしない。彼女が選んでくれたこの未来を、俺の手でちゃんと育てる。
彼女が、笑った。その笑顔が、何よりの答えだった。
