クリスマスイベントも無事に終わり、年末の慌ただしさが社内にも漂い始めたある日。夕凪未来は、休憩スペースに一足早く姿を現していた。手には、ラッピングされた小さな箱。
やがて、なつめが少し遅れてやってくる。
「未来さん、お待たせしました――あれ?」
「いえ、少し早く着いただけです。……あの、なつめさん」
「はい?」
「これ、受け取っていただけますか」
そう言って差し出されたのは、手のひらに収まるくらいの、丁寧に包まれた箱だった。
「えっ、プレゼント?」
「はい。先日、私にサンタになりますと冗談を交えて言ってくださったこと、嬉しかったです。それに」
言葉を少し選ぶようにして、未来は続けた。
「私にとって、なつめさんと過ごす時間は、もうそれだけで価値のある贈り物です。ですから、ささやかですが、形にしたくなりました」
なつめがそっと包装を解くと、中には――真鍮のしおりが一枚、光を淡く反射していた。細く繊細な枝の模様が彫り込まれ、中央には、ごく小さな手書き風の文字。
《To the one who changes my seasons.》
「これ……」
「貴女と出会ってから、私の時間に季節が生まれた気がしています」
ぽつりと、そう言った未来の言葉に、なつめは言葉をなくした。しおりを持つ指が、かすかに震える。視界の端が滲むのを、ごまかすように笑った。
「反則、です」
「そうでしょうか。これは、あくまでお返しですから」
「うそ。これは……“未来さんからの好き”でしょ」
「はい。私なりの、ですが」
なつめがそっと笑う。ほんの小さな贈り物が、ふたりのあいだに温かい光を灯していた。
