プレゼント

赤とピンク、それから数本の薄オレンジのチューリップに、カスミソウ。かわいいピンクのリボンで束ねられたそれが、いつものように夜に部屋を訪ねてきたサンソンによって、目の前に差し出された。

「リツカ、これを」

「くれるの?ありがとう!」

 突然どうしたのだろうと思いながらもそれを受け取る。今日は何かの記念日だったかな?そうサンソンに聞くと、少しだけ、ほんの少しだけむっとした表情を浮かべた気がした。

「えっと、ごめんね。本当に何の日だったっけ?」

「今日は僕たちが付き合って一年になる日です。その様子だと、本当に忘れていたのですね?」

「本当にごめんって」

 付き合って一年。忘れないようにカレンダーに書いていた気がするけれど、ここ数日忙しくてそれを見る暇もなく過ごしており、近かったことは覚えていたけれど、肝心の日を忘れてしまっていた。ドラマなどでよく、男性が付き合い始めた日を忘れてしまって女性に怒られるというシーンを見たことがあるけれど、それと全く逆のことをしているね。立香はそう考えながらも受け取ったブーケを見つめる。

本当にかわいい。それにしばらく華やかに部屋を飾ってくれるようにという配慮からだろう、開ききっているものもあれば、まだ蕾でしばらく咲きそうにないものもあったし、水切りも済まされているのだろう。売られているものより幾分か短くなっている茎部分を確認し、もう一度嬉しそうに花を眺め始める姿を見て、サンソンも嬉しそうに頬を緩ませた。

「シャルロ、ありがとう」

「いえ、立香に喜んでいただけるのでしたら、選んだ甲斐がありました」

「これ、サンソンが自分で選んだの?」

「ええ、と言いたいところでしたが、花には意味があるのでしょう?僕はあまり詳しくなかったので花言葉の載っている図鑑を図書館で借りまして、それで選ばせてもらいました」

 ダヴィンチ工房で生花の取り扱いも行っているということで購入しに行ったところで、「おや、きみは?……ふふ~ん?なるほどね?」だなんて幾分かからかわれましたが。サンソンは思い出しつつ、少しいじけた様な表情をしながら頬を赤くさせる。いじけてなんかいなくて、照れているだけだと分かる立香は、珍しいなと思いながら先を促す。

「ってことは、これ一つ一つに意味があるんだ?」

「ええ。僕が説明してもいいですが、ご自分で調べられます?」

「ええと、今回は教えてほしいかも」

「わかりました。では、せっかくですしほかの花の説明も含めて」

 ブーケはベッド近くのテーブルに飾り、サンソンと立香はそのベッドの端に座る。そうしてサンソンは一緒に持ってきていた本を開く。

紫は永遠の愛、白は新しい愛、緑なら美しい目、黄色は実らぬ恋。

「色によってだいぶ変わるんだ」

「ええ、僕も調べて驚きました」

「そうすると、童謡のチューリップの赤白黄色は」

「白と黄色は少なくてもあまりいい意味ではないですよね。というのは置いておきまして、本題に戻りましょうか」

「うん」

「このブーケの意味ですが、例えばオレンジのチューリップは照れ屋という意味ですね。いつも僕のすること一つ一つに、今のように顔を赤くして照れているあなたにふさわしいと思いまして」

「えっと、照れてるのは本当だけれど、これ、このまま続くの?」

「ええ。そうですね。このまま。それとも僕の膝の間で聞きますか?」

「それはもっと恥ずかしいからヤダ!」

 立香は反射的にサンソンから距離を取って座りなおそうとするも、少し考えてから、先ほどより近くに座る。口角をあげるようにしたサンソンに「続きは?」とそっぽを向きながら促す。

「赤は真実の愛、ピンクは誠実な愛。両方、僕からリツカへ捧げたいものです。それからカスミソウは、僕のいつも立香へ思っている気持ち、です」

「えっと……?」

 言葉を濁しつつカスミソウのページを開くサンソンに、立香はページを見ようと覗き込もうとする。そこにサンソンの声が重なった。

「何があったとしても、無邪気に楽しもうとするあなたに心配するところはあるのですが、その清らかな心をいつまでも持っていてほしいと思います。僕は、貴女が貴女であることに感謝をしているのです。ただ、それだけじゃなく……ね?僕は貴女と一緒にいるときに、いつでもこう思っているのです」  指さす先に描かれた言葉。サンソンが言った言葉。すべてに立香は頬を染めて、どう答えようかと口をパクパクとさせるのであった。