「じゃあ、今日から一週間はお休みだからね。しっかり休息も取ってたのしんできてくれたまえ」
「ありがとう、ダヴィンチちゃん!」
管制室でかけられた声にありがとうと返す。いつも通りお仕事を手伝っていたらダヴィンチちゃんに話しかけられて、協議した結果だと言われた言葉。突然与えられた休暇に驚きつつも、理由を聞いて納得した。
妖精王オベロンから、マスターが働き過ぎで全く休みを取れていないのではないか、という休暇申し立てあったのだった。私としてはそんなにワーカーホリックではないと思っていたのだけれど、ここ最近の行動記録を自分で見て、彼の言葉に納得。日常と仕事が混じり合っていて気づかなかったけれど、どこからどこまでが休憩だか分からなくなっていたことに今気づいたのだった。
「そう言うわけで、休憩しに戻ってきたわけだけど」
「どういうわけで?」
「それはこっちの台詞だよ」
自分の部屋に帰ると、オベロン・ヴォーティガーンがベッドでいつものように寝っ転がりながらお菓子を食べている。シーツが汚れてしまっている気もするけれど、もうそれすらもいつものことなので、ため息をつきつつ同じベッドの端に座った。
「うわっ、こっちに来るなよ」
「いいでしょ、私の部屋なんだから私がどこにいたって」
「……、まあ良いけど。それで? 休暇をもぎ取ってきたんだって?」
「もぎ取ってきたって口が悪いって。じゃなくて、一週間たっぷり休暇をもらえたんだ」
だからみんなと遊んだりもできるね。何して遊ぼうかな。そう言いながら立ち上がってゲームの入っている場所へ向かおうとする。しかし、それは阻まれた。
「……オベロン」
「なに?」
「え、えっと、この手は?」
腰に気まぐれのように回されたオベロンの手に頬が熱くなる。別に変なことをしているわけでもない。けれど、彼に、仮にも恋人となった彼に後ろから抱きしめられるだけで、こうにも動きを止めてしまう。心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思うほどにドッドッと鳴るのに、慣れることができないでいた。
「きみ、この程度で欲情するわけ?」
「欲情って」
「間違えてはないだろう?」
「……」
言葉を返すことができない。確かに人はより良い遺伝子を持つ相手と生殖行動を取るために、恋という感情を持つ。この胸が高鳴るのだって、ただ後ろから軽く抱きつかれただけで頬が真っ赤になるほどになってしまうのだって、そのためだと言われたら欲情という一言におさめられてしまうのかもしれない。それでも、オベロンから告白されたときに、言葉にならない言葉をかけてくれた彼に、うれしさが募ったのは確かなことであった。
考え事をしていると、オベロンが腕を解き、横に並ぶように座ってくる。そうして外套を煩わしそうにしながらも後ろに流した。
「ところで、だ。さっきの話とは続いてるんだけど、きみは今回の休暇がどうして取れたかは知ってるかな?」
「オベロンが、休暇申請を私の代わりにしてくれたから?」
「ああ、そうだとも。それで、俺に対して感謝の気持ちぐらい持って欲しいと思ったんだけど」
「うん。感謝はしてるよ?」
「本当に? 今、少しだけめんどくさいなとか思わなかったわけ?」
わざわざ取ってあげたんだからと言った恩着せがましい態度に少しは思ったけれど、彼もそれを言いたくて言っているわけではないと、煽り言葉を無視して続きを促す。
「オベロンは、何かしたくて休暇申請をした、そうだよね?」
「話が早くて助かるよ、マスター。……いや、リツカ。さっきの話の続きだけれど、ほら、俺は謀らずともリツカの処女を散らしたし、その後に恋人にもなったんだ。それからもこうやってきみに会いに来ている」
「うん、それは分かってるよ?」
恋人になる前からベッドを占領していたこともあるけれど、なってからは格段にそれが増えた。それだけじゃなく、レポートを仕上げようとして遅くまで起きていると、いつの間にか横にはハーブティーが蜂蜜を入れた状態で置かれていた。全く素直じゃない恋人のそういったところに癒やされていたのだった。
「そう、分かっていたんだ。それだったらそろそろもう一段階進んでも良い頃じゃないかと思ったんだけど」
「というと?」
「今日はきみとセックスをするために部屋に来たわけさ」
両思いになって、付き合って、デートを重ねて、それで行き着く先と言ったら……そういうことだろう? 口元に笑みを浮かべたオベロン。まさかそんなことを直球で口にしてくるような人だとは思っていなかったので、顔から火が出るんじゃないかと言うほどに真っ赤になってしまった。
「はは、面白い顔をするじゃあないか。直球は嫌だったのかい? それともこの姿かな? ああ、俺としたことが悪かったよ。ハジメテ……ではなかったけど、女の子ってさ、王子様に優しくしてもらうのに憧れるんだろう?」
「あっ、待って」
第一再臨の姿になろうとするオベロン。それに待ったをかける。確かに優しい王子様を演じている彼に抱かれるのも良いかもしれないと思うところがないわけではないけれど、それでも私が抱かれたいのは、横で何もかも分かっているというように笑みを浮かべている彼なのだ。
「ん? どうしたんだよ」
「その、抱くのは構わないけど、そっちの姿の方が、私としては嬉しいかなって」
「なに? きみ、虫に抱かれる趣味があるのかい?」
「そうじゃないけど、この姿が本来のオベロン・ヴォーティガーンでしょ?」
私はきみに抱かれたいから。ただのオベロンじゃなくて、オベロン・ヴォーティガーンに抱かれたって覚えたいし刻みつけて欲しいから。
恥ずかしいけれど、ここで彼を見ずに言うのは彼に対して誠実ではない。そう思ってゆっくりと彼に向き直る。そこには、どこか嬉しそうにしながらも表情を歪めている彼がいた。「……きみ、本当に変わった人間だって言われないかい? 俺に抱かれたいだなんて。いいよ、分かった。きみの時間をもらおうか。そうだな、五日間。その五日間できみと交わるのは一度だけ」
「一回だけ?」
「ああ。あの悪趣味な魔力供給をこっちも忘れたいんでね。それから姿だけど、どの俺も俺だ。だからどうせだったら全部の姿を楽しんでみたらどうだい?」
「わ、わかった」 こうして五日間をオベロンに託して、二人で仲良く部屋にこもることになったのだった。
