「マスター、誰だい、この人は」
「あ、それは」
しまったというように藤丸立香は顔を歪める。その言葉には仲間を失った悲しみが乗っていた以上に、それ以外の苦しみを感じて、甘い言葉にできないような感情を視て、オベロンは目を丸くする。こいつ、俺以外にそんな感情を向けていたやつがいたんだ、と。
藤丸立香は第六の異聞帯を超えてオベロンを召喚。召喚の際に彼と敵対していたモルガンや妖精騎士たちとの間に軋轢はあったが、マスターとは主従関係以上の関係にはならず、そのまま時を過ごしていた。
オベロンの目には嘘と本音が見えている。マスターに対して様々な念を浮かべているもの。それら全てに気持ちが悪いと思っていたが、何よりもマスターがオベロンに向けている感情が本当に吐き気がするほど気持ちが悪かったのだ。思慕、恋慕。そういったものと言われる甘ったるい感情。それと共に視えるごめんねという思い。好きなら素直に好きだと思えば良いのに、マスターだから誰かサーヴァント個人に対して特別な感情を持ってはいけないだとか、サーヴァントに感情を向けると悲しいことになるだとか、苦しい想いに溢れている言葉で満たされていたのだった。藤丸立香はオベロン・ヴォーティガーンに特別な感情、恋愛感情を寄せている。オベロンはそう思っていたし、鋭い周りのものからしてもそういった認識であった。そんな立香が自分以外にもそういった感情を持っていたとは意外であった。
立香よりは薄い、雲がかかったような夕焼け色の長い髪の毛をひとまとまりにしている、ダビデ王のような薄緑の瞳を持っている者。彼は藤丸立香と並んでピースをしていたが、どこか人が良いような、立香のようなぽやぽやとした雰囲気を纏っている男だなと思った。
「で、こいつは誰なんだい?」
「え、えっと……、彼は」
ロマニ。ドクター、ロマニ。ロマニ・アーキマン。
そう言った彼女の言葉は、嘘か視ようと思わなくても、やっぱり悲しみをたたえたものであった。
