「ぁあ!……んっ!」
腰に絡みつく足。無意識だろうそれはぎゅっと絡みつき、精を逃さないというように膣内もうねる。身体に絡みつく感覚に、目の前の彼女の表情に、絞り出される切ない声に。全てに嫌悪感が押し寄せると共に、胸によく分からない気持ちが溢れていく。
エラー、エラー、エラー。
きっと立香たちが踏破した第五異聞帯の機神たちが同じような状況に至ったのであればきっと、エラーと言う言葉を吐き出すのだろう。フー、と荒い息を吐き出し、感情の波を落ち着けようとするも、蜂蜜色と視線が交わる。
常にその瞳は真っ直ぐにどこかを向いて、強い意志を持っていた。その瞳が蕩けるように、本当に甘い蜜にでもなってしまったかのように錯覚をする。
「っ……ん、ぐ!」
「あ、ぅ……お、ベロン。も、イく?」
「ああ、さいっ、っあくな。ことに、ね」
だめだ、これは。良すぎて涙を流している彼女の腰を両手で押さえ、深く穿つ。身体が言うことをきかずに、ただガクガクと射精をするためだけに腰が動いて、そうして果てた。
「ん……っ、おべろん、すき、だよ」
「ああ」
「……その、それで、ね」
絶頂を迎えた後の少しかすれた声にそちらを向くと、少し照れたように立香はそっぽを向く。そのまま言葉にならない言葉を口からこぼすが、そんな言葉の端々から伝わる本音にじくじくと胸を焦がされた。
オベロンはもう疲れちゃったかな。もっと欲しいって言ったらエッチな子って思われるかな。好き、大好き、■してる。
含まれていた読み切れない感情。■してるって何だ。言葉は知っている。声にも乗せられるだろう。それでも、それであっても。オベロン・ヴォーティガーンとしてあってはいけない感情、向けられてはいけない感情に、眉間に自然と皺が寄った。
「オベロン、どうしたの?」
「いや、きみがあまりにも愉快なことを考えていたのが不快だっただけさ」
「愉快なことって……えっと、全部、分かっちゃった?」
「ああ」
ハジメテがあまりにも酷かった彼女に、二夜目として甘い夢を見せた。妖精王として、彼女の処女を散らした責任としてそこまでは取らなければと思ったからだ。それだったら今こうして彼女の上にもう一度被さろうとしている俺は何なんだ。
仰向けにされ、そのまま俺をもう一度受け入れかけた彼女は、急に止まった俺を見ていぶかしげに眉をひそめる。何も考えなければこのまま口づけを落として続きをすればいい。それでも一度考えてしまったからなのか、やはり身体は動かなかった。
「オベロン?」
「……」
「ど、どうしたの?」
何かしちゃったのかな。やっぱり無理をさせちゃってた?
未だにされる気遣いに歯を噛みしめる。まっとうな生き物であったのなら、番いに思われることを嬉しく思うのかもしれない。もしかしたらもっと気を惹くために下手な演技をするのかもしれない。それなのに、どうしてこんなにもそれとは反する気持ちがわいてくるのか。
気持ち悪い。思い返せば最初からそうであった。ブリテンで一緒に旅をしていたときだって、対峙したときだって、召喚されたときだって、その後だって。いつも気持ち悪いという感情があった。
身体に走る感覚のままに魔力を貪った一回目。二回目だって一回目のような想いをさせるわけにいかないと、行動も言葉も歪んでしまう自分自身の性質を考えて行動していた。彼女が望む言葉を、行動をどうしたら取れるか。演技とも言える状態で彼女を抱いていた。
第六異聞帯、ブリテン。そこで旅をしていた時から感じていた少しの窮屈さ。立香と語り合ったとき、ティターニアの話をしたときには感じなかったこの大きく育ってしまった虚空感。
空虚だと思った。それが満たされたのは立香が絶頂に至った時だ。そう思ったけれどそんなことはなく。ただただ、それらの感情はごちゃ混ぜに、ない交ぜになって、気持ち悪さが爆発するようだった。
「う、ぇ……」
「えっ、ちょっ、オベロン?!」
こみ上げる吐き気。流石に立香の上に吐瀉物をまき散らすのだけはまずいと思い、ベッドから頭を出して下にぶちまける。胃酸に似た何かと一緒に吐き出されたそれは、マスターの部屋をしっかり汚した。
「ぁ、が……ぉぇ……」
「オベロン、大丈夫?」
「はっ、ぁ……きみには、大丈夫に、みえる、わけ?」
エラー、エラー、エラー。
再度頭の中でそんな音が響いてくるような、そうでないような。実際には聞こえない音に、真っ赤に染まったような視界に、大丈夫では無いと訴えた。そのうちに視界も曇ってくるような気がして、ますますわけが分からなくなる。
「オベロン、もしかして、泣いてるの?」
「っ……!」
そんなはずは無いと思った。ただ気持ちが悪いだけだと。
気持ちが悪い、気持ちが悪い。俺は何だ?俺は今、何をしようとしていた?
考えがまとまらずにまた吐き気がこみ上げる。今度は吐き出す前に抑えきったが、それが限界で。 立香の声が後ろに聞こえる中、無理矢理霊衣を纏って部屋から逃げるように去るのだった。
