五日目 エッチしましょう

 ピピッと零時のアラームが小さくなる。今日で五日目。五日目だけど、それを理解する前に、身体がビクッっと震える。

「お、べろん」

「リツカ?」

「日付、こえたよ?」

 だからもう、次に進もう?

 全身にキスの雨を降らされて、ありとあらゆるところを見られて、私もオベロンのいつもより蕩けたように見える瞳を見て。直接的に触れられてないのに気持ちよく感じて、高めあって。一日中エッチなことばかり考えて、夢の中では繋がっていて。もう、シたいとしか考えられなくて、気持ちよくなって欲しいし、愛して欲しいとしか考えられなくて、上から覆い被さるようにしてきた彼の足に足を絡める。

 本当は三十分以上かけて愛撫を行って、それから挿入をする段階になるというけれど、前日から愛され続けた身体は、直接的なところを触られていないにも関わらず、ぐじゅぐじゅに準備ができている。それに恥ずかしさを感じる段階はとっくにこえてしまっていた。

「おべろん」

「ん……?」

「も、やだぁ。これいじょう、じらさないで?」

 おべろんの、いれて?

 直接はさわってはいけないとあったからおねだりだけ。それだけでオベロンといっしょにきもちよくなれる。あいしてもらえる。たったそれだけでいいなら。

 口からこぼれた言葉にオベロンはニィと口の端を歪める。それだけで、たったその動きが意味することを理解するだけで甘い痺れが全身に走って、そして膣口にオベロンの熱いモノが当てられて、それで。

「あっ、ぁ、あ!」

「っ……!」

 熱い、苦しい。そんな初めてだった。でもそれが上塗りされていく。痺れるような気持ちよさと、穿たれる熱に声が勝手に唇からこぼれる。やだっ、嘘。こんなにきもちいなんて。

 挿れられて、次は引かれる。それだけでまたあの感覚を感じることができる。そう思っていた私は、その次が来ないことに唖然とする。どうして? 何で? セックスって抜いたり挿れたりするんじゃ無いの?

「きみ、最後まで、調べなかったの、かい?」

「さいご、って?」

「最終日。挿れてからのこと、さっ」

 このまま三十分以上挿れたままにするんだってさ。だから言っただろう? 通常の性行は挿入してからそこまで時間もかからずに射精するけど、ポリネシアンセックスは時間がかかる。挿入してからが本番だってね。

 ボタボタとたれる汗と、噛みしめられながら言われる言葉。オベロンだって腰を動かしたいのかそれとも本能的になのか、最奥に押しつけるように動きそうになって、それを意識的に押さえつけようとして足をふるわせている。

 我慢してるんだ、そう思う一方、我慢なんかしないで欲しいとはしたない欲望が渦巻いていく。また見つめて欲しいし、抱きしめて欲しいけど、それより何より今は。一番奥を思い切り突いて欲しいし、膣内がめくれるぐらい勢いよく、抜けるぐらいまで腰を引いて欲しい。ぐちゃぐちゃのぐちょぐちょになるぐらい。自分が分からなくなるぐらいに激しくして欲しい。

 もう、令呪に頼っちゃおうかな。チラリと見えた自分の右手にそんな思いを浮かべる。簡単にそれはできる。けど、それは、オベロンと一緒にするって決めた自分のことも、オベロンのことも裏切ってしまうことになるだろう。そう思って、なんとか耐える。

 静かな部屋に吐息だけが響いて、自然と顔が近づく。動けないもどかしさを発散するように切れそうな唇を荒々しく合わせた。挿入するだけじゃ足りない。合わせた唇をぺろりと舐めると、オベロンにも意図が伝わったのか、舌を絡め合う深いキスへと変わた。

 ポリネシアンセックスを始めた時、合わせるキスだけさえできなくてもどかしかった。キスができる日になって、それ以上ができなくてもっともどかしくなった。唇を合わせる以上を求める心に、淫らな自分の気持ちに、オベロンに軽蔑されちゃうんじゃないかと怖くなった。それでも今、こうやってそれを受け入れてもらえていることに嬉しくなる。自分の悩みなんかどうでも良かったんだと思ってしまう。

 最初は舌先、それから少しずつ様子をうかがうようにつつき合う。それから大胆に、すくい上げられるように絡まされ、唾液ごと吸い上げられる。苦しい。でも嬉しい。

 それと一緒に抱きしめる力が強くなって、彼の背中に自分も手を回す。すると、手に翅が当たる。翅は生殖器じゃ無いから良いよね。いたずら心に翅の付け根に手を伸ばし、ソコを撫でつけた。

「っ、り、つか?!」

「ぁっ、やぁ!……おべろん!」

 膣内のオベロンのモノが大きくなった気がする。いや、気がするじゃなくて、大きくなった。ミチミチと大きくなったそれをさっきのまま締め付けているのか、圧迫感が大きい。

「だから、言っただろ。翅はやめろって」

「だって……」

「だっても、何も無い、……だろ」

 引き続きキスを落とされ、胸に触れられる。今まで一回も触れなかったそこに触れられ、揉み込まれる。さっきのお返しだと言うように意地悪な顔をしてキスから解放したオベロンはこちらを見てくるも、眉を歪めた。

「はっ……そろそろ、三十分ぐらいたつ、な」

「んっ、動かすの?」

「やっぱり読んでないな。俺はこのままだよ。だから」

 リツカが頑張って俺のことイかせてよ。ニヤニヤとしながら爆弾発言。何で、と言いかけて、自分でも違和感に気がつき始める。オベロン、さっきより気持ちよさそうにしてる?

「っ、はっ、ぁ……ほら、ひくついてきてる、だろ?」

「え? あっ、うそ?!」

 オベロンの……おちんちんに慣れるを通り越した身体。ゆっくりじっくりと慣らされたそこは、勝手に絞る取るようにヒクヒクと動いてるのが分かる。

「あっ、や、やだ!……恥ずかしぃ!んっ……ぁん!」

「ははっ、なにこれ、全く動かしてないのに溢れてきてるし、締め付けてくるんだけど。淫乱かよ」

 恥ずかしいことを言われたくないのに、その言葉にも反応して締め付けて、愛液をこぼしてしまう。本当に淫乱だし、気持ちいいこと好きだし、……何より言葉はひどいけれど、嬉しそうに、愛おしそうに見てくるように見えるオベロンに嬉しくなる。

 もっと愛して。私もオベロンのことをもっと好きだって伝えたい。ぎゅってして。

 本当は動いて欲しいけど動かない約束をしている彼。でも、もういいんじゃないかな。

「ね、おべろん」

「はっ、……なん、だい?」

「おねがい、動いて?」

「正気かよ。ああいや、正気じゃ無かったね。ここまできて全部を無にするつもりなわけ

?」

 こくりと頷く。オベロンはあくまでも自分では動かないつもりらしい。確かにそれでもイけるかもしれないけど、それでもオベロンにもっと気持ちよくなって欲しいと思った。きっとこうやってぎゅうぎゅううねってる中で動いたら気持ちいいんじゃないの?そんな風に思っているとため息をつかれる。

「あー、わかった。その代わり、一回では終わらないと思えよ?」

「……、う、ん」

 腰を力強く抱え込まれる。それからぐっと奥まで押し込まれて、目の前に火花が散る。気持ちいい、やだっ! 子宮口だと思うところを亀頭でぐぐっと押される。そのまま引き抜かれて、クリトリスの裏を刺激されて、また奥のポルチオへ。

「ぁん!ああっ、あっ、やっ、おべ!んんっ!」

 タブレットで見て得ただけの知識。どこを刺激されてるかは明確には分からないけれど、きっとそこだろう場所を刺激されて声が漏れる。

「だから、止まらないって……言っていないか。でも、とめるのは、無理だから」

「やぁ!あ、あ、あっ!」

 嫌じゃない。もっとして欲しい。

 嫌がる言葉から本音を拾うオベロンはにやりとしてより激しく腰を動かす。さっきまではまだこちらを気遣うように動いていたところがあったんだ。気づかされる腰づかい。ガクガクと射精をするためだけに激しく動いているのが分かって、今まで溜まっていた切なさも相まって、自然と足を絡ませた。膣内だってぎゅっと締め付けるように、彼が出すためだけにあるみたいだと感じてしまう。それでも今まで感じたことが無いほどの切なさと愛おしさに襲われて、果てた。

「ぁ、あっ、あ、あっあああ!」

「っ……!」

 ドクドクと脈打つのを感じる。目の前がチカチカとして、身体は力が入らない。きもちいいのと、それから膣内だけが、彼のモノが脈打つのに合わせて脈打っている気がする。とろとろと、緩やかなまどろみに誘われるけれど、それでもそれにあらがいたくて首を振った。

 幸せ。幸せなのだと思う。行為としてみてしまえばただただ性感帯を刺激し合っているだけ。それでも、セックスしている最中に見た瞳の色だって、意地悪だけれど捻くれている言葉だって、自分の様子をうかがっているところだって、全部が全部、大好きで、愛おしくて。「おべろん」

「なに?」

「えっとね、オベロン……好き、だよ」

「そうかよ」  好きという言葉には答えない声。それでも、それが当然であるように笑みを浮かべて、するりと私の頬を撫でた後に口づけてきたオベロンに、えへへ、と笑うのであった。