あれから、何度も手を繋いだ。サークル帰り、人混みの道、少しだけ冷たい夕方の空気の中で。
どちらともなく手が近づき、指先が触れるたびに、今なら良いかもしれないと思って、何も言わずに指を重ねた。最初のあの日だけが特別なわけじゃなかった。むしろ今の方が自然で、特別で。……ずっと前から、こうだったかのようだ。
誰かに見られているかもしれない。周りの反応も少しは気になる。けれど、遼の手が自分の手を包むたびに。そんなもの、どうでも良くなった。
この人に触れられているだけで落ち着く。こんなに安心できる感覚を私は知らなかった。 朝比奈さんの手、好きだな。
声に出す勇気はまだ無い。でも、もう心の中でははっきりとそう思っていた。
今はただ、この人の隣にいることが、当たり前に用になっていく感覚が嬉しい。
手を繋ぐたびに、彼女の体温に自分の体温が混じっていくことを感じる。最初は驚いたし、息が止まるほどに嬉しかった。でも今は、それ以上に大切にしなきゃと言う気持ちの方が強くなってきている。
繋いでいる手は細くて、軽い。でも、俺がもらったどんな賞よりもずっと重たい信頼がそこにある。彼女が俺に手を差し出してくれるたびに、俺はちゃんと応えなきゃと思う。
下心なんかじゃなくて、守るって意味でも無くて、もっとシンプルに――。
ただ、好きだって事を、ちゃんと伝えていきたい。
今日も別れ際。駅の手前で、ふと彼女の手が離れかけた。でも俺は、もう一度その手をそっと握った。彼女は驚いたように目を見開いた後、ほんの少し照れた顔で笑った。たったそれだけで、胸が一杯になる。 ああ、多分俺、本当に今、幸せなんだな。
