冬飾り

「■■■■■、今日は雪が降っているね」

「そうですわね。あまり冷たいところにいますと、体に障りますわよ?」

「少しぐらい大丈夫だと思うけど。……あっ、あっちの家は何か飾り付けているみたいだね」

 確か、クリスマスだったかな。汎人類史から流れてきた本に書かれていた冬の行事。それを真似ることで、キラキラと輝かしい飾りがあちらこちらにつけられていた。私の領土であるマンチェスターは今日も人間と妖精が一緒に仲睦まじく暮らしていて、思わず笑みが浮かぶ。

「■■■■■も今日は調子が良いみたいだね」

「そう、ですわね。でもアドニス。先ほども言いましたが」

「わかっているよ。無理はしない。だから一緒に外を歩きたいな」

 手をつないで歩きたいと、まるで子供のように私を見上げるアドニス。まるで子犬のようなかわいらしさにぎゅっと抱きしめたくなるけれどその気持ちを抑え、こほんと一つ咳をする。領主であるならば、領主らしく。威厳を持って接しなければならない。けれど、彼にはそんな私の気持ちなんてお見通しなのである。ニコニコと笑顔で、危うい足取りで前を歩こうとする。それを見て危ういと私が手を伸ばせば、彼はそれすらもわかっていたように、

その手をぎゅっと握った。

 自分よりも貧弱な手。手だけではない。全てが私たち妖精より脆く、命だって三十年経たずに次代すらない状態で死んでしまう。なのに、それなのに、こんなにも温かくて安心できる大切な存在。なんと言えば良いかわからないけれど、一緒にいるだけで胸が高鳴る全身に熱が行き渡るような、自分より小さな存在。愛しているといってしまえばそんな言葉なんて軽すぎて消え去ってしまうような。

 二歩、三歩と歩いて行くアドニスの足取りは危うい。もうすぐ歩くこともできなくなってしまうだろうその体を見ていると、絶望を感じる反面、自分が彼には絶対的に必要になるのだろうとほの暗い気持ちも浮かぶ。それを振り払って前を向き。歩けるうちには一緒に歩いて行こうと、握られた手に少しだけ力を込めて歩きつつ、一緒に町の飾りを見つめる。

「■■■■■」

「何でしょう?」

「僕がもし、まだ来年もきみと一緒にいられたなら」

「ええ」

「僕と一緒にまたこうやって過ごしてほしいな」

「……当然、ですわ」

 当然、貴方と一緒に過ごすでしょう。当たり前のことを言う彼に、目元が熱くなる。泣いてはだめ。たとえ終わると決まっている命であっても、それでも私は最後まで彼と一緒にいることを決めていたのだった。たとえ、それが来年まで持ちそうになくても、それでも彼と最後まで。  向けられた視線を正面から受け入れることはできなくて。そっと視線を逸らしながら当然だと答えることしか私にはできなかったけれど、彼はそれに答えるように手を強く握り直してきたのだった。