「ドクターのことですか?」
「マスターとの写真をこの間見つけてね。ずいぶんと仲が良さそうだなって思ったんだよ」
「ええ、そうですね。マスターと彼は、彼女の主治医がドクターであることを抜いても仲は良かったと思います」
アスクレピオスやナイチンゲールのいない時間を狙って医務室を訪れる。比較的ドクターと交流がありそうなサーヴァントで話が通じるもの。そしてこちらに害を与えてこないもの。それを考えたら自ずと声をかけられる相手は絞られてくる。
目の前のサンソンは嘘をついていない。嘘をつく理由なんか無いけれど、それでも諜報の癖のようなもので慎重に。そんなことをオベロンが考えているとは思わずに、サンソンは二人との思い出話を口にしていった。
それは本当に他愛もないこと。例えば二人がいる医務室での出来事であったり、食堂、彼女の部屋でマシュたちも参加していた午後のおやつの時間であったりと、そんな話だ。
オベロンには分かるような分からないような、恋とも憧れともとれる少女の思いの詰まった曖昧な時間。
「僕から見た二人は、マスター自身の生存をかけているのもそうでしたが、医師とその患者、戦友。そういった言葉以上に深い絆があったと思いますよ」
「そう、だね。少なくても彼女にとってはとても大切な存在であったと言うことは分かったよ。ありがとう」
「いえ。僕の話で少しでもマスターのことを知っていただけたなら良かったのですが」
サンソンは一度息を吐くと、何かを考えるように、言葉を発するかそうしないか迷うように口を動かす。これは面倒なことが起こるかもしれないとオベロンは思いつつも、このカルデアで余計なことをしてマスターと四六時中一緒になることになったり、逆にマスターの保護者サーヴァントと呼ばれるものたちに目をつけられたりしても困ると思い、逃げたくなる足を留めた。
「オベロン、君は……マスターのことを知ってどうしたいんですか?」
「どうって、マスターのことがただ気になっただけだよ?サーヴァントとしてマスターのことを知っておきたい。それは当然のことじゃないかな?」
「僕は妖精國での貴方のことを知っています。記録とマスターのレポートだけですが、読ませていただきました。その上で聞きたいのです」
「……ああ、そういうことかよ」
かぶっていたやさしい妖精王のガワはいらないということ。オベロン・ヴォーティガーンとしてマスターの情報をどうするのか、彼女を知った上でどう行動するかってことが知りたいと言うことだ。
害を及ぼすなら刺し違えてでもマスターを守り抜く。一見穏やかに冷静に。それでもそのような覚悟が垣間見えるのは、マシュの次に彼女と長い間旅をしてきたサーヴァントだからだろうか。オベロンはこいつはこいつで面白いと鼻で笑った。
「まあ、心配しなくても良いと思うよ。俺はマスターのことをさらったりとか、彼女の心の隙を突いたたり……なんて考えてはいないから」
第一、失意の庭を超えた彼女を精神攻撃でどうにかできると思うわけ?とオベロンはふっかける。サンソンもその辺りは心配していないのだろうか、それとも思うところがあるのだろうか、少しだけ表情を緩めた。
「俺はさっき言った通り、マスターがあまりにもマスターらしくない顔をしたもんだからどんな相手なのかって、気になっただけさ。何をする気も無い。……それで、聞きたいことはそれだけ?」 それ以上はないよな。言葉の外で話は終わりだと席を立つ。さて、マシュを抜いて一番近くにいたであろうものからの話は聞けた。それ以外のものからももう少し話を聞いておこうか。マスター本人から詳しく話を聞けなかったからだろうけれど、どうしてここまでしてロマニの話を聞きたいのかと思いつつ、医務室を出るのだった。
