「うふふふふ、そうよね」
「そうね、本当に」
薔薇が咲き誇る庭に、白いテーブルと椅子。その椅子に座っているのは3人の婦人。いずれもこの庭を所有している主人の娘達であった。世間話をしつつ、時に笑い合いながら紅茶に口をつける。紅茶の中には砂糖漬けのスミレが一つ浮かんでいた。
「全く、良いご身分だな」
薔薇の垣根から見えないように顔を覗かせ、ひげがぼうぼうに伸びきった男が婦人を眺める。男は、屋敷の近くに立派な小屋を構えているホームレスであった。屋敷から出された残飯を食いあさり、出されたゴミから金になりそうなものを拾い集めて生きている。いつもだったら談笑が終わり、男がうらやましがるほどの甘い菓子を食べてお茶会が終わる。だが、今日は少しだけ事情が違っていた。
相変わらず笑い合う婦人達。その周りに小さな女の子が現れる。お母さん、と婦人の服の端を摘まんで呼びかける女の子に、婦人は手を差し伸べた。
「……」
男はただその様子を眺める。手には柔らかなパンを持っていた。それは数分前に小さな女の子が渡してきたものであった。
女の子は男の前に無邪気にも現れて、それを恥ずかしそうに手渡してきたのだった。
