結婚式をしよう

 須賀とシオリが結婚することはすぐに村中に伝わった。結婚おめでとうという言葉や、まだしていなかったの? と言う言葉、それだけではなく、出産の時には任せなさい、などと一部セクハラに近い発言もあったが、それは昔気質の村だからこそあるお節介の一つ。佐久間が相変わらず狸じじいと呼んでいる村長にすら、やっとかというため息をつかれながら提出した婚姻届によって、神崎シオリは須賀シオリになった。

「須賀くんって呼んでたけど、これからは私も須賀なんだよね」

「そう、だね」

「なんかちょっと新鮮な感じがして面白いね」

 ご機嫌な様子で田んぼの横の草だらけの道を歩くシオリの指に光るのはシンプルな指輪。実はプロポーズをした後にはめたシロツメクサモチーフの指輪はシオリの指には緩すぎて、今はネックレスとしてシオリの胸元を飾っている。

「須賀くん、じゃなくてこれからは『こうくん』って呼んだ方が良いかな?」

「こっ……、なんでまた」

「こうたろうくんでも良いけど、こうくんって呼んだ方がしぃちゃんって呼ばれてるのとおんなじ感じがして?」

「……まあ、いいんじゃないかな」

「じゃあ、こうくんで」

 こうくん、うん。こうくん。しっかりと噛みしめるようにシオリは口にする。少しだけ歯がゆいような、照れくさいような。呼び方で関係が変わったことを自覚するということもあるのだろうけれど、須賀ははっきりと関係が変わったことを自覚したのだった。

「そういえば、結婚したけど、披露宴とかってどうしようか?」

「しぃちゃん、それを言うなら結婚式じゃない?」

「そうだった。結婚式!」

「する? できるぐらいに貯金はあるけど」

「できればしたいな」

 じゃあしよう。そんなことで簡単に決めていいのかと思いながらも、それでいいのかもしれないとも思う。確か結婚式に関しては資料館にも本があったはず。ゼカシィとかいう本だったかな。そんなことを考えながらも須賀はシオリの手に手を絡めるて家まで向かうのだった。