「私はこの衣装が良いな」
「それって……確かしまってあったはずの」
「そうだよ。これ、お母さんが着てたやつなんでしょ?」
「多分そうだと思う」
挙式の日取りも決まり、後は衣装を考えるだけとなった。さて、ドレスはどんなものが良いか。二人で一緒に考え、挙式の金額を考えてレンタルドレスで済まそうかという話になりかけていたけれど、シオリがふと何かを思い出して、それを持ってきたのだった。
そのドレスは須賀が隠していたわけではないけれど、部屋の最奥にしまっていたもので、埃が付かないようにとカバーが掛けられていた。いつ見つけたのかとも思ったけれど、きっと自分がいない間に整理でもして見つけたのだろうと考える。と、そこでシオリがにやりとしているのを目の端で捉えた。
「しぃちゃん?」
「なあに、須賀くん?」
「……、どうしたの?」
「あはは、ばれちゃったか。こうくんがこれを神妙な顔で見てるなってね。そんな顔を見てたら、つい、昔のことを思い出しちゃったんだ」
「昔のこと?」
「うん。須賀くんと再会したときのこと。模造刀持って追いかけてきたときのことだよ」
「ええと、あのときは……ごめん」
「ううん、別に気にはしてないよ。だって私たちのこと守ろうと思っていたんでしょ?」
「うん」
「それでね、このドレス、そのときに見つけたんだ。それもあって懐かしいなって」
「あのときに?」
確かにあのときから変わらないところに置いてあったけれど、そんなときに見つけるほど屋敷を歩き回っていただなんて。シオリの行動力は本当に予想が付かないと須賀は思う。
昔から本当に、それこそ自分の命を簡単にかけてしまうほどに行動力の塊であった。それがうらやましいと思う反面、どこか危うさを感じてしまい、息を飲む。昔のことを叱っても仕方が無いと思うけれど、それでもよく分かりもしない屋敷の中を、武器を持った人間のいる中歩き回るだなんて。ある意味無謀とも取れる行動に、須賀はため息をついた。
「しぃちゃん、あまり危ないことはしないで」
「……、うん」
「でも、思い出してくれてありがとう。埃が被らないようにはしてたし問題ないと思うけど、しぃちゃんの背丈に合うかな?」
「そこまでお母さんと背は変わらなかったはずだから、大丈夫だと思うけど。良かったら今着てみる?」
「いま?」
「うん。今」
と言ってもここで下着姿になったりするわけにいかないから、とシオリは辺りを見渡す。確かにここは資料館の談話室であり、公共の場所である。たとえ今日が休館日だとしても、こんなところで肌を晒させるには須賀にも抵抗があった。
「とりあえず、服の上から羽織ってみるね?」
「しぃちゃ……まあ、羽織るだけなら」
ずっぽりとドレスに足を通すシオリを見て、諦める。シオリは器用に服を着込んだままドレスに袖を通して、フォックをつけて形を整えていった。服の上から着ているから多少歪んでいるけれど、それでも綺麗に見えるシオリの姿。須賀は先ほどとは別の意味で息を飲んだ。
「こうくん、どうだろう?」
「……、すごく、綺麗だよ」
「そ、そう、かな?」 後はシオリのチャームポイントであるヘアバンドを取って、ベールをかければ立派な花嫁に見えるかもしれないなどと思う。そうでなくても快活さとかわいらしさが共存しているようなシオリに胸を毎日打たれるように思っているのに、これ以上綺麗な姿なんて見せないで欲しい。そう思ってしまうところもある。けれど、シオリが実際にドレスを着てみたことで、その衣装で結婚式を挙げようと決めたのだった。
