衣装の決定 - 3/3

 階段の上から、花束が投げられる。それは須賀とシオリからの幸せのお裾分け。村人全員が参加した結婚式で、シオリと須賀は全員参加のブーケトスを行ったのだった。

「はぁ……」

 既婚女性、男性含めるとは何事かと佐久間は思った。そんなことをしたら押しくらまんじゅうになる気がしたけれど、よくよく考えると、それは須賀とシオリなりに気を遣った結果なのかもしれない。日本全国高齢化の波が押し寄せいていて、それは自分の生まれ育ったこの村にも関係がある。村人の中で結婚適齢期の女性は自分を含めても少ない。そんな人たちだけでブーケトスをされたら別の意味で地獄になるかもしれないから、それを避けたのかもしれない。佐久間はそう考え直した。

 シオリはブーケを真っ直ぐに投げた。それは佐久間の方に向かっていったのだが、残念ながら佐久間の身長としては届かない、遙か上に向かっていった。あっ、と柄にもなく思ってしまう。ブーケトスを受け取った女の子は次に結婚できるだなんていう迷信を信じているわけではないけれど、なんとなく取れないことを残念に思った。が、それは佐久間のすぐ後ろでキャッチされた。

「おっと……ほら、佐久間」

「ちょっと、なんで渡してきてるのよ!」

 シオリのブーケを手に取ったのは望月。村人は綺麗にそれを佐久間に渡している姿を見て沸き立った。佐久間のお嬢さんが求婚されているぞ。今日は須賀くん達だけでなく、佐久間……いや、望月のお嬢さんのめでたい日でもあったのか。

 佐久間はそんな言葉を聞いて真っ赤になりつつ、望月の手を取って逃げ出した。

「はぁ、はぁ……佐久間、何で逃げたんだ?」

「そりゃ当たり前でしょ!あんなこと言われたのよ?」

「まあ確かに驚いたけどな、須賀くんと神崎……シオリさんに失礼じゃないか」

 投げ方を間違えてしまったと慌てたシオリと、村人の発言を聞いて驚いた須賀の顔が脳裏をよぎる。確かに二人には悪かったかもしれないけれど、今戻るのはさらに恥ずかしいことになりそうで戻るに戻れない。交際は認められているからといって父親達が見ていたのもまずいと思う。それでも、なんとなくだけれど。

「確かに失礼だったかも。でも」

「でも?」

「あの二人だったらこれぐらいのこと許してくれるし、なんだったらこの思い出も良いものに変えてきそうな演出とかしそうな気がする」

「……、まあ、そうだな」

 驚いてはいたけれど、逃げる佐久間を見て『あとは任せて』と得意げな顔をしたシオリを思い出して苦笑する。全く何をしてくれるのだろうか。それとも自分たちが逃げることすら見越してブーケを投げてきたのか。須賀とシオリ、二人との今後を考えて佐久間は笑顔を浮かべたのだった。