追想の愛 - 1/3

 飾り付けた部屋にクリスマス仕様のベッド。お夕飯ごろまでお待ちくださいと先輩を部屋の外に無理やり出してしまってから数時間。できる限り飾り付けたと、額に浮かんだ汗をぬぐい息を吐く。キラキラ、キラキラ。クリスマスツリーに飾り付けられるオーナメント。金と赤を基調としたそれに、天井からは沢山の羊たち。リースへとつながるリボンは天井のあちこちから繋がっている。メリークリスマスと英語で書かれた飾りをベッドサイドに飾り付けて息を吐いたところで、ぐるぐるとお腹が鳴った。今年も先輩と。そう一瞬思ったものの、首を振る。

マスターとサンソンが付き合ったって本当?どこから洩れたかわからない、もしかしたら本人の口から肯定されたのかもしれない噂が、あの日から広がっていた。そうして先輩もサンソンも肯定も否定もせず。ただ、二人の間が以前より近くなったと思われる程度の距離感を保つ関係。マイルームはサンソン固定になって少しだけ寂しかったけれど、それで良かったのだと思った。

そうしてクリスマス。今年はどのような飾り付けをしましょうかと考えていると、一緒に飾り付けを手伝うと申し出た鈴鹿が「本当に付き合ってるなら、最初のクリスマスなんだから、二人きりがいいでしょ」とマシュに声をかけてくる。好き合う相手と思いが通じ合って初めて

のクリスマス。それを壊してしまうのは野暮である。そう言った鈴鹿の言葉がよくわからずにマシュは首をかしげた。沢山の者達と過ごしたほうが先輩は嬉しいんじゃないかとマシュは思う。けれど、鈴鹿はそうじゃないと言ったのだった。

「好きな人と過ごせるってだけでも嬉しいと思うんだよね。でも、マスターはきっとマシュのことも気にしちゃうと思うの」

「……」

 好きな人、サンソンさんと過ごすことが幸せ。サンソンさんと最近過ごす先輩はとても幸せそうなのは分かる。そうしてその幸せそうな表情のまま、自分を呼んでくれることにも幸せを感じていた。けれどそれが二人の幸せを壊してしまうものならば、とも思う。

「マシュ?……ちょっと今のいい方は私が悪かったわ」

「いえ、そんなことは」

「マシュが二人の幸せを邪魔してるとかじゃなくて、って

こういうのって難しいし」

 恋の話は難しいと鈴鹿は手早く飾りをつけながらも、片手間に話す。

「まあ、私たちは私たちで思い出に残る楽しいクリスマスパーティーしようじゃん、って他の子とも話してたんだけど、マシュもせっかくだから来る?って誘いたかったっていうか」

 二人が楽しむことを邪魔したくないとかだったら、せっかくだしって。いつもは先輩についていくだけだった。けれど鈴鹿のこのやさしさにマシュは頷くのだった。

「すごいよ、マシュ。これってマシュたちが全部やってくれたんだよね?」

「はい、飾り付けさせてもらいましたが、ありがとうございます。喜んでいただけて、嬉しいです」

 赤いベルベットに雪の結晶の模様のある寝具カバー。赤と黄色それぞれの枕クッション。クリスマス仕様になった寝具に、大きなツリー。ベッドサイドには小ぶりなテーブルと二脚の椅子。その上にはすでにシャンパングラスと、冷やされた白ワインとシャンメリー。お酒があったほうが盛り上がるでしょ、といった鈴鹿により用意されたそれらへキラキラとした瞳を向けるマスターに、用意してよかったと思えるマシュであった。

「でも、本当にマシュは一緒じゃなくてよかったの?」

「はい、今年は鈴鹿さんや清姫さんたちに一緒にクリスマスパーティーをしましょうとお誘いをいただきまして」

 ごめんなさいと、ぺこりと謝る。マシュにもクリスマスに一緒に過ごせるような大切な人たちができたこと

に嬉しさを感じつつ、もしかして気を使われているかなとも立香は思った。この後の警護担当、もとい、クリスマスという日を一緒に過ごすのはサンソンであり、それはつまり一晩中一緒に過ごすということであり、クリスマスということはプレゼントが必要ということで……。と、ここまで考えて、立香は顔を真っ赤にする。まさかサンソンが日本の性夜なんて事情を知るわけもないし、彼は敬虔なカトリック教徒であったはず。それでも、もし知っていたら。バレンタインの清姫ちゃんよろしく自分をプレゼントとして渡そうとしたらどう捉えられるだろう。ぐるぐる、ぐるぐる。この部屋でもしかしたら起こってしまうかもしれない事態を考えて、混乱を起こす。マシュはそんな立香の前で首を傾げつつ、クリスマスパーティーの時間も迫っていたので失礼しますと部屋を去っていったのだった。

「えっと、あと準備できるものは」

 お夕飯の時間に伺いますとおやつ時の食堂でサンソンと別れてから数時間。あと一時間もすれば約束した時間となる。ワインは十分冷やされているし、食事はサンソンが持ってくるとなると、準備するものもない。あとは寝る前の準備を全てやってしまおうと考え、寝るときのパジャマと、クローゼットに入っていたドレスを準備し、シャワーを浴びた。

 ざあざあと降り注ぐお湯に身体を任せる。お湯で流れないところで泡立て、髪を洗い始める。そうしているあいだにもサンソンが来てしまったらと思い、なるべく手早く。すべて終わってシャワー室から出て、ヘアオイルが洗面台にあるか確認をする。料理を邪魔しない程度に香って、それでいてかわいいって思ってもらえるようなもの。バレンタインやイベントの時に貰った道具の中にあったマスカットと確か、イランイランとかいう花の香りがするヘアオイル。それを使えばいいかと立香は手を伸ばして、数回プッシュした。

「マスター、お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」

「あっ、ちょっと二、三分待ってて」

 下着姿のまま洗面台の前でドライヤーをかけてサニタリールームを出たところで、外からサンソンの声が聞こえた。少しだけ待って欲しいと頼みつつ、用意したドレスを素早く着ながら髪の毛をどう結ぶか立香は考える。いつものようにサイドに結ぶのもいいけれど、せっかく二人きりで時間を過ごせるクリスマス。普段と異なる髪型がいいかもしれないと思いつつも、選んだのは白みがかったホンアマリリスの飾りの入ったゴム。それをいつものようにサイドへと結んでしまう。いつもの癖とは怖いものだけれど、自分にはやっぱりこれが似合うと思いなおし、サンソンへ入室許可を出した。

「リツカ、失礼します。……これは、見事な飾り付けですね」

「ようこそ。私が飾りつけしたわけじゃなくて、マシュたちがしてくれたんだけどね」

 本当にすごいよねと、改めて見渡して思う。隣にやってきたサンソンはいつものコートではなく、一度カルデア内で行われた音楽祭の時と同じ格好をしている。そう言った自分もホンアマリリス以外はその時の格好をしているから、音楽祭から抜け出したようになっていた。

「立香、その恰好は」

「一度しか着てなくてもったいなかったからだけど、ダメ、だったかな?」

「いえ、とても素敵ですよ。この飾り付けが霞んでしまうぐらいには」

 サンソンは立香が整えたばかりの髪の毛を救い上げて口づけをした。目の前の少女は顔を真っ赤にして、慌てて食事をとろうとサンソンを誘いながら、離れる。そんな姿を見て苦笑した。

付き合い始めて、何か月もたってはいないけれど、その間に行ったこと。付き合う前から立香がひどく夢見が悪い日には抱きしめて落ち着くまで背中を撫でていたけれど、それは理由もなくするように。サンソンの苦手な小さな接触。手を握って、その温かさに二人とも頬を緩ませる。それから口づけ。夜に寄り添いながら他愛もない話をする時間。話題もなくなったころに甘えられるように近づいたことに、思わず落とした唇。初めてだったのにと恥ずかしがっていた立香にかわいさが溢れてしまい、頬におでこにと沢山のキスを降らせた。

そんな立香が誘うような香りを漂わせているのはおそらく本人も意識していないんだろうとサンソンは思いつつ、持ってきた料理をテーブルへと二人で広げたのだった。

 サンソンが食堂から持ってきた料理は冷めないうちに食べられた。食事も終わり、喉が渇いたと飲み物を探せば、サンソンが飲んでいる白ワインの代わりにと出されるシャンメリー。自分がまだ子供であると暗に言われているようで少しムッとしつつ、立香はそれを飲み干した。

「リツカの出身国では、確か二十歳になったらお酒を飲めるようになるのでしたね?」

「うん、そうだよ」

 どうしたのと立香が首をかしげると、サンソンは苦笑しながらも答える。

「いえ、リツカがこれを見ていたので、もしかして飲みたいのでは、と思いまして」

 揺らされる白ワイン。確かに飲んでみたいけれど、年齢制限は分かっているつもりである。どうしても超えられない大人と子供の壁。そういえばサンソンの肉体年齢は何歳なんだろうと、ふと立香は思う。自分と同じような年齢に感じるけれど、それはつまり未成年から二十歳を過ぎた年頃。それを聞いてみると、サンソンは目を瞬かせた後に、ふわりと微笑んだ。

「年齢制限のことを気にされているのでしょうか?僕の国では十八歳から酒類の購入はできますし、飲酒可能な年齢に制限はなかったかと」

「えっ、それは」

 ずるい。思わず口からこぼれて、はっとする。ずるいも何も国ごとに制限が違うのだから仕方がない。けれど、大人の基準がそこにある様に植え付けられてしまっている国民性としては、そうでなくてもだけれど、サンソンの年齢については気になるところであった。

「そこまで僕の年齢が気になりますか?」

「うん、まあ……?」

 あいまいに答える。気になると言えば気になる。けれど、英霊であれば年齢なんて気にしなくてもいいのかもしれないとも思う。子供のような姿で現界しているサーヴァントが大人の姿をしているものと一緒に底なしのようにお酒を飲む姿も見たことがあった。

「それよりはお酒が気になってるようですね?」

「うん、まあ、そうかな?」

「それでは、飲んでみますか?」

 勿論、そのまま飲むというのは見過ごせませんが、故意ではなく飲んでしまったというのであれば。サンソンは唇の端に薄く残ったそれを彼らしくない動作で舐めとると、立香の目を覗き込む。その眼はいたずらに細められており、普段は絶対に見せない顔。そこからその意味を理解した。悪属性だ。と場違いなことを思いつつ、こくりと問いに頷く。

「リツカ……」

「サンソ、……っん」

「今は、シャルロ、と」

 そのまま近づいてきたサンソンに、立香は思わず目を閉じる。いつの間に椅子を寄せたのだろう、隣にやってきた彼に、縋り付くように口を合わせて咥内の愛撫を受けた。

 くちゅり、と頭の奥まで音が響くような愛撫。舌の裏を刺激されてあられもない声を出してしまいそうになるのをこらえつつ、酸欠になる直前まで耐える。くらくらとした頭に、そろそろと立香がサンソンの胸を叩くと、あっさりとサンソンは身を引いた。

「はぁ……、リツカ、すいません。大丈夫ですか?」

「んっ、だい、じょぶ」

 大丈夫じゃないけれど、大丈夫。立香が息を整えようとすると、もう一度と顔を近づけられる。サンソンとキスをするのは好きだ。だけど、もう無理だと身振りだけで伝える。これ以上は何かがおかしくなってしまう。それでもサンソンは止まらず。やさしさはあるけれど、無理やりに舌を絡ませるような深いキスをされる。無理、無理だって。舌で必死に押し返そうとするも、それを取られて絡ませられ、漏れ出る唾液も全て吸い上げられた。

「んっ……んんっ、ふぁっ」

「ん……はぁっ、はっ……リ、ツカ」

「やっ、もう……しゃるろ」

 いつものサンソンより鋭く、それでいてどこか熱っぽい瞳でこちらを見てくる。切なそうに歪められた表情は色気が溢れているけれど、立香は場違いにもそれらをかわいらしいと思ってしまった。

「ん、ふふっ」

「どう、されましたか?」

「しゃるろ、かわいいなって」

「……」

 ムッとした表情。それでも頬に熱が集まっているのは変わりなくて。それを見て、息を整えながらも口にしていた。

「シャルロ、その……いいよ?」

「いい、とは?」

「女の子にそれを言わせるの?……その、ね、シャルロに、抱いてほしいなって、思いまして」

 ぎゅっと目を瞑り、両手をお腹の前で握り締める。私からこんなことを言ってしまって幻滅しただろうかと、立香がうっすら目を開けると、サンソンは困ったような笑みを浮かべ、おでこにキスを落としてきたのだった。

「リツカ、すいません。リツカの口からそんなことを言わせてしまって。僕は、退去するまで付き合ってほしいと言いましたよね?」

「うん」

「付き合ってほしいと言いましたが、それでも、最後までする気はありませんでした」

 それは将来リツカに本当に大切な人間が出来たときのために、散らされるべきものだと思っていたからです。サンソンは立香の瞳を覗き込む。そこは情欲の熱で潤んでいた。

「ただ僕も、そう我慢できる男でもなかったようで。リツカが良いというなら、リツカのことを抱いてしまいたい、そう思っています」

「……うん、いいよ」

抱きしめられ、自分も抱きしめる。そうしてそのまま椅子から持ち上げられて、ベッドに寝転がされた。クリスマス仕様のベッド。いつもとは違う空間で、いつもは見ない天井と、サンソンの姿。立香の心臓は今さらながらに早鐘を打つ。本当に、これからシャルロと。

覆いかぶさってきたサンソンの姿にもう一度目を瞑ると、緊張をほぐすように優しいキスを落とされた。

 落とされる深いキスに息も絶え絶えになる。けれど、それでも。もっと欲しいと、すべてを奪って欲しいと、煽るように立香は口づけを交わそうとする。唇を合わせるだけでは足りなくて、もっと欲しいという心のままに首に腕を回し、そうして縮まった距離はそのままに。くちゅり、とお互いの全てを貪りつくすように舌を差し入れた。

「んっ、ふぁ……シャ、ろ……もっと」

「りつ、か……んっ」

 欲しい、欲しい。そうとしか思えなくて。疼く下腹部にその理由を今までは考えないでいたけれど。初めてなのに恥ずかしい。けれど、欲しくて。

立香が首に付けていた飾りを少しだけ乱暴に取り払ったサンソンに、自分と同じ気持ちなのだろうと察した立香が顔を赤くする。キスだけで蕩け切ったはちみつ色の瞳。ベッドの上でこれからすることは分かっているだろうに今さらそんな姿を見せる立香にサンソンは息を一つつく。もう止まらない。止まれないと、自分の着ていた外套とジレも脱ぎ捨てて、タイを取った。それから立香の服を見て、どうしようかと一瞬考える。

「リツカ」

「ん……、ど、したの?」

「いえ。その、服を脱がせてしまっても良い、でしょうか?」

「え?」

 小さく瞬く。それはそうだろうとサンソンは思った。立香が着ているのはベアトップの白いドレス。これからのことで汚してしまってはいけないと思いつつも、初めての相手に急に服を脱いでほしいと言うのもよろしくない。だが……と考えた結果であった。

「あの、えっと、そういうことをするのは知ってるけど、その……って汚しちゃうから、だよね?」

「ええ、本来であればこういったことを聞くのは。すいません」

「ううん、私こそ、いつもの服だったらこんなこと言わせなくて済んだのに」

 少しだけいつものような雰囲気が戻る。それに笑ったのはどちらだろう。さっきまで飢えていたのに。求めあっていたのに。二人の初めての日としてはこちらの方が

自然な気がして、笑みを浮かべながら立香は起き上がった。

「うぅ、初めての日って、もっとロマンチックに脱がされてって、そう思ってたんだけどな」

「すいません」

「ううん、いいよ。それにこっちのほうが何だか私らしいのかなって思っちゃって。それで、ドレスだよね?」

「ええ」

 それじゃあ、ちょっと待ってて欲しいな。これ、脱ぎにくいから。立香が後ろ手にかぎホックを外そうとする。一つ、二つ。その手をサンソンは後ろに回って止めたのだった。

「シャルロ、どうしたの?」

「リツカ、僕がそれを外しても?」

「いいよ?」

 自分で脱ぐより脱がされるほうが実際には楽なのだと、なんとなしに立香は許可した。サンソンはどこか嬉しそうに立香の手を払い、そうして一つずつ外していく。それと同時に。

「ひゃっ!えっ、えっ?」

「どうされました?」

「どうって、今」

 確かに先ほどまで合わせていた濡れた唇の感覚がした気がする。立香がそう思っている間にも残りのホックが外され、それと一緒に、その感覚が一つ二つ、と下がっていく。背中にキスを落とされているのだ、と立香が理解して振り向くと、そのまま再び口を奪われた。そうして、そのまま。今度は全て脱がされ、ドレスは丁寧に畳まれて、食事をとっていたテーブルとは別のサイドテーブルに置かれる。それを横目で確かめながら、背後に感じるベルベットの感触と、噛みつくように落とされるキスの感覚に酔った。

「あっ……」

キスと一緒に身体を撫でられる。それは最初は頬、首、鎖骨。そうしてストラップレスのブラジャーに手をかけられる。いたずらに胸の谷間にある紐を弄られて、圧迫感から解放された。それと同時にキスは唇から離れていき、身体をなぞったものと同じように下っていく。鎖骨の後に、胸元に。それから胸の頂に唇を落とされた。

「ん!……ふぁ、ぁ……ぁ、あ!」

胸にばかり意識を集中していた立香に衝撃が走る。胸よりずっと下。足の付け根のその部分。胸への刺激は予想していたけれど、そちらは全く予想をしておらず。ふいに動いて足を立香の両足の間に入れたサンソン。それによって全く予想していなかった強すぎる刺激に身体を震わせたのだった。

「ぁ、ぁ……しゃ、るろ?」

「……」

 聞こえているはずなのに、聞こえていないように進めるサンソン。意地悪だと思いつつ、胸への刺激と、足の間に差し込まれた足を動かされる刺激にびくびくと体が震える。それに、意図せずともあげてしまいそうになる声に、手で口を押さえた。

「……っ、……っ!」

「はぁっ……、リツカ?」

「……、な、に……かな?」

 声をあげることを我慢したことと、口を塞いでいたこと。二つのことから立香は息を乱しながら聞く。サンソンは申し訳なさそうな困ったような顔をしつつ、口にする。

「その」

「うん」

「声を、聞きたいなと、そう思ってしまいまして」

 それにキスしたいと思ったときに、それができませんから。手の上からキスを落とされる。それはずるい。それだけではないけれど、ずるい。立香はそう思いながらも、目をそらしつつ、手を放す。それから視線はそのままに。

「その、ずるい」

「ええ、僕はずるい男です」

「声が聞きたいってそうやって言ったり、自分だけ脱がないでそうやって……私のことを。してもらってばっかりじゃなくて、シャルロにも、気持ち良くなってほしい、から」

 だんだんと小さく、ゆっくりとした声になっていく。話しながら自分の求めていることに気づいたようで、立香は恥ずかしくなってしまったようであった。

「リツカは初めてですし、初めてでも良かったという思いになって欲しいと思っていましたが。リツカは僕にもヨくなってほしい、そう思っているんですね?」

「うん。だって、私ばかり気持ちよくなるんじゃなくて、二人で気持ちよくなって、……愛を確かめ合う、のがセックスなんでしょ?」

 だからシャルロにも気持ち良くなってほしいし、シャルロが私にしたいと思ってるのも分かるけど、私も初めてだけどシャルロに何かしたい。立香の健気な言葉に、一瞬何も言えなくなってしまうが、それでも。サンソンは嬉しそうに自分の胸に立香の手を触れさせた。

「……?」

「リツカ、それではお願いがあります。その、僕の服を脱がせてくれませんか?」

「えっと?」

「ええ、リツカが想像している通り。リツカの服は脱がせましたし、ね?」

 やっぱりずるい。立香はそう思いつつ、手を動かす。起き上がったりはせずに、押し倒されたそのままに、両手を使って服を脱がせていく。シャツの下には顔に似合わないしっかりとした肉付きのある身体。シャツから少しだけ見えているという状況に色気を感じてごくりと息をのんでしまって恥ずかしくなる。今日だけでどれだけ恥ずかしいと思っているのかはわからないけれど。そうしていると、こちらは?と立香の手はベルトまで引っ張られた。

「ぁ、えっと、そこ、は……」

「ダメですか?」

「ダメ、じゃないけど」

 シャルロって、こんな私でも勃ってくれるんだ。思わず手をそのまま下に。サンソンは息を飲む。

「んっ……!」

「あ、ご、ごめんなさい。痛かった?」

「いえ、そうではないですが。むしろリツカに触れられて、気持ちよくて」

「気持ち、いい?」

「ええ。でも急にだったから驚いてしまって。申し訳ありません」

 よかったら、スラックスを降ろして触ってくれませんか?それから、僕もあなたに触れたい。欲情を灯した瞳で覗き込まれ、立香は頷く。そうしてベルトを外してスラックスを降ろし、そうするころにはサンソンも立香に触れる。自然ともう一度口を合わせ、下着の上からお互いの性器に触れた。

「ぁん…んっ、あっあっ……やぁっ!」

「はぁ、りつか。……んっ、気持ちいい、ですよ」

「ぁ、……よかっ、ぁっ!」

 拙い、ともすれば萎えてしまうような愛撫。それでも。確かにサンソンの陰茎は立香の愛撫に反応し、立香も布を一枚隔てただけの場所を、その布を押しのけた手によってぐちゅぐちゅと、それこそその布一枚が意味の無いようにしとどに濡らし、早く挿れてほしいと、はくはくと、無意識に動かしてしまう。最初にクリトリスに触れられていただけの手は、膣口を撫で、そこへ入り、一本、二本、三本と指を増やしていく。途中で苦しくなったこともあったけれど、そうなるたびに一旦中断。そうして慣れてきたらゆっくりと動かされ、途中でお腹側の一点に触れられてびくりとしたところを、重点的に触れられるようになった。

 自分が触れているそれをもうすぐ挿れるんだ。立香がそう思っていると、もう腫れ上がってしまうほど受けた

キスをもう一度され、その拍子にショーツを脱がされる。それからサンソンも唯一残っていた下着を脱ぐ。大きいし、太い。あんなものが挿入るのかな。少しだけ怖くなって身体を固めてしまう。そうすると、落ち着かせるようにと、キスを落とされた。

「ふふっ、シャルロ」

「なんでしょう?」

「キス、嬉しいなって。今日だけでいっぱい、いっぱいキスしてくれて、嬉しいなって、そう思って」

「そう、ですか」

 来て。そう言いながら両手を伸ばしてくる立香にサンソンは困ったように笑みを浮かべる。本当に今さらだけれど、立香の初めてを奪うつもりはなかった。けれど、誰かが立香の初めてを奪うことを考えただけで、はらわたが煮えくり返りそうになっていたのも真実で、さらに言ってしまえば、今後立香に大切な人が現れてほしくない。そうともサンソンは思っていた。

 サンソンは立香の膣口に自身の陰茎を擦り付け、それから腕を伸ばしている立香に甘えるように押し掛かる。

「ぅ、い……ぁ、あ」

 わずかな抵抗を感じた瞬間、ぎゅっと、まわされた立香の腕に力が籠められ、サンソンの背に爪が立てられる。痛みはあったけれど、それは立香が感じているものよりずっと軽いものだろう。一番太い部分が入り、それから少しして亀頭が最奥に当たる感覚を感じる。立香は声をあげないようにと歯を噛みしめながら苦悶の表情を浮かべていたけれど大丈夫だっただろうか。サンソンが乱れた立香の髪の毛を払うと、彼女の瞳には生理的なものか、それとも別のものか、涙が浮かんでいた。

「しゃるろ、も、ぜんぶ?」

「ええ、挿入りましたよ。すいません、りつか。泣かせてしまいましたね」

 僕の医術を使って痛みを少なくすることもできますが、どうしますか?きゅうきゅうと挿入れられた異物を体の外に出そうとする立香の膣内。意識をそこへと集中させようとするも、その立香自身に止められた。

「いいの」

「ですが」

「あのね、痛くて泣いてるんじゃないんだよ。私は、シャルロと繋がれて、うれしくて」

「……リツカ」

 サンソンは眉を寄せると、あふれ出た涙に口づけを落とす。何度も、何度も、立香の感じる膣内の痛みが無くなるまで、立香の嬉し涙が止まるまでそれは続いた。

「しゃるろ、も、大丈夫。ごめんね」

 驚かせちゃったよねと、立香は重ねて謝る。そんなこ

とはしなくていいのに、痛みを与えたのは自分なのにとも思いつつ、最奥まで挿入っていたものを軽く引く。それで少しは苦しさや圧迫感から解消されるだろう。そう思って引き抜いたそこには、破瓜の血が絡みついていた。

膣内の締め付けも最初よりは収まっているけれど、それでも絡みついた血の色は新鮮で。痛みが残っているのではないかと、サンソンは立香を見る。それでも立香は額に汗を浮かべて、苦しそうにしながらもはにかんでいた。

「シャルロ、続き、しよ?」

「リツカ、いいのですか?」

「ん、いい、から」

「ですが……そんな状態では放って置けません」

 眉間に皺を寄せたまま大丈夫だなんて言われても、それをそのまま受け取ることはできない。せめてその表情が穏やかになってから、受け入れてほしい。そうサンソンは口にする。それまでは、このまま。なるべく立香に痛い思いをさせないように、怖がらせないように。

自分が苦悶の表情を浮かべている限りこのままなのだろう。それはそれで恥ずかしいし、嫌だ。だけどこの気持ちは伝わらないのだろう。それだったら。立香はサンソンにその気になってもらおうと動く。

「シャルロ、それだったら……キス、して?」

「はい、それでいいのでしたら」

 破瓜の痛みを和らげるためなら。これですこしでも気がまぎれるなら。サンソンが口づけをしようとすると、立香の方から舌を差し込んできた。それはサンソンが数分前に行っていたことの真似事。拙いそれだけれど、煽ろうとしているのはサンソンには伝わった。

「んっ、……リツ、カ。それは、やめてください」

「なんで?」

「なんでって、貴女を傷つけてしまいそうだからです。まだ痛むのでしょう?」

「うん。でも、続き、してほしい。シャルロに気持ち良くなってほしいし、だめ?」

「……、わかりました。僕の負けです。ですが、少しでも嫌だとか感じたら、令呪を使って止めてください」

「令呪を?」

「ええ。恐らく、これから先は止まれないから」

 本当は挿入れてすぐにでも動きたかったんですから。それを我慢して慣れるまでそのままでいてくれようとしたのかと、立香は胸を打たれる。それと一緒に膣内を締めてしまったようで、サンソンの方が呻くこととなった。

「ふ、ぅっ……、リツカ、あまり、締めないで」

「それだったらシャルロだって……ううん、シャルロ

……お願い」

 私を愛して。その言葉はすぐに口づけによって消え、膣内に熱く太いものを穿たれる。膣内の気持ちよさを感じられるほど熟れてはいない媚肉を剛直が擦り上げ、慣れていないそこは小さく悲鳴を上げた。痛い、苦しい。でも、嬉しい。浅く息を吐く。膣内での気持ちよさなんてまだ感じられないけど、時々クリトリスに当って、ビリビリと痺れるような感覚を立香は感じたのだった。

「ぅん、……うぁっ!……ぁ」

「リツカ、はっ、はぁ……」

「ぁ、や、やだ、シャルロ!そこ、なんか、ピリピリするの」

「それは……」

 気持ちいというんですよ。その言葉に膣内をキュッと締め付けてしまう。今、なんて?気持ちいい?このピリピリするのが、きもちいいっていうの?リツカは混乱する頭の中で、サンソンの言葉を復唱するように口を開いた。

「きもち、ぃ?」

「ええ。ここを、触った時、切ないような、感覚を、感じませんか?」

「ぁ、ん……ゃ、ぁぁあああ!」

 腰を動かすのは止めずに、そのままクリトリスに触れられる。乳頭を口に含まれた時と同じように、じんじんと、ピリピリとした感覚。それからお腹の奥に溜まるような苦しいような、……切なさ。これが気持ちいっていうの?気持ちよさよりなにより、最初に口づけたときのように「もっと欲しい」という感覚の方が近い。瞳にその感情が映っていたのかもしれないが、それを見つけたサンソンは、さらに奥深くまで穿つ。

 奥を突くたびさらに奥へ引き込もうと、入り口まで戻るたびに出ていかないでほしいと絡みつくようになる膣内。サンソンはそれに喉を鳴らしそうになる。しかし、それを抑えて。

だんだんと慣れてきたこともあるのだろうが、無意識なのだろう。本能として精を搾り取る様に蠢動し始める膣内に、孕ませたいという、動物としての部分が刺激される。けれど怖がらせたくない。善かったものとして、彼女の中にこれが残っていてほしい。それならば。サンソンは結合部に溜まり始めていた、先走りと愛液の混ざった液体を掬い上げて、クリトリスに塗り込んでいく。そうして、そのまま刺激し、立香の性感を高めていく。先ほどそのまま刺激したよりは緩やかだけれど、それでも立香にとっては我慢しきれないもの。そうしてそれは刺激をしながら彼女への想いを打ち付けていたサンソンにとっても同じこと。

「あ!ああっ、ん!ひぁ!……しゃるる、やだ!ぁ、あぁ!こわ、い!」

「……!それは、どこかにいってしまいそうになる。そうじゃないですか?」

 絶頂の前に怖さを感じて止めてしまう女性がいるとは聞いたことがある。それではないかと思い、さらに腰の動きと、クリトリスをいじめる指の動きを早くする。

「そう、なの。下、ぐりぐりってされると、気持ちよくて、なにも……かんがえ、られなくて!あっ」

「それなら、そのままで、だいじょ、ぶ、ですから。まかせて……ください」

「あぁっ、あん……わ、かった」

「それに、……ぼくも、あなたの膣内で……!」

「……っ、ひぁぁあああ!」

「ンッ……!」 サンソンが声をかけた瞬間、我慢ができないというように、立香は快楽の頂点へと向かう。サンソンも立香の膣内の締め付けに耐えられず、己の精を何度も最奥へと吐き出したのだった。