追想の愛 - 2/3

「やあ、よく来てくれたね」

「ええ、もう決まっていたことですから」

 絶頂を迎えた疲れからか、そのまま眠ってしまった立香の身体を清めて服を着せる。それから彼女に一つキスを落とすと、ベルベットのシーツをかけた。全体を整え、部屋を出る。そうして最初から決められていたように、ダヴィンチの部屋へ向かったのだった。

「立香くんと、お別れはできたな?」

「ええ。マシュだけでなく、貴方の、貴方たちにご協力していただき、ありがとうございます」

 最後の亜種特異点もクリアしてからのクリスマス。本来であればすぐにでも退去、そして藤丸立香には一般人としての生活が戻ってくるはずであった。それを引き延ばしたのはダヴィンチや他職員の協力があってこそ。今、職員はダヴィンチが人払いをしていたため誰一人いないが、彼らにも心の中で感謝の言葉を贈っていた。

「そんなに形式ばったことは言わないでくれたまえ。立香くんだって一人の女の子だ。君と少しの時間でいいからと過ごしたかったんだろう。私としては、こんなことに一般人である彼女を巻き込んでしまった罪滅ぼしでもあるんだから」

「……やはり、明日。いえ、もう今日の時刻ですね。今日中に退去しなければいけないのでしょうか」

「ああ、残念なことにね。それでだ。君はもう座に還ることを決めたんだね?」

「はい。もうお別れは済ませてきましたから。僕は彼女に対して後悔はありません。ただ、彼女がこれからを幸せに過ごしてくれればそれでいい」

 さみしそうな微笑みにダヴィンチは気づかないふりをして、コーヒーを啜る。きっと本当にお別れを済ませてきたのだろう。彼に、未来の彼女の姿を見たいということ以外に後悔はないはずだ。それならば、もしかしたら酷なことになるかもしれないと思い、手元にある鞄を彼の見えない場所にしまい込む。

「そう。それだったらまたもし『マスター』に呼ばれることになったら」

「その時は僕でない僕が、マスターと最後まで生き残るために戦うでしょう」

 ありえないだろう未来の話かもしれないし、もしかしたら聖杯戦争の話かもしれない。次に呼び出されたらの話を口にする。 それからサンソンはダヴィンチの部屋から退出するのだった。