「やあ須賀くん、久しぶりだね」
「望月巡査。お久しぶりです」
「こんにちは……招いてもらって嬉しいけど、お姉さん達の食事会に来て良かったの?」
「こんにちは。全然問題ないよ? むしろこのメンバーじゃないと意味が無いかなって思って」
あのときのメンバーで話がしたかったんだというシオリの言葉に、望月と佐久間は目を丸くする。場所はシオリが以前住んでいた都会の高級レストラン。ディナーの予約を入れたいけれど来てくれるかなと連絡があったのは数ヶ月前で、そのときに両家顔合わせの代わりに食事会をしたいと連絡をもらったのだ。
本来であれば両家の顔合わせでお互いの家柄やしきたりなども確認する場となっているのだが、それは須賀とシオリのことだ。お互いに両親は亡くなっているし、そもそも亡くなる前から両家は顔なじみであった。
もし両親が共に存命であったのなら、きっと和やかな食事会になったのだろう。須賀もシオリもそれを想像したいと思い、少なくても自分たちが結婚するに至った経緯を知っている顔なじみのものと食事をすることでそれを再現しようとなったのだと、佐久間と望月は理解していたのだった。
「そういえば須賀くん、その時計は新しいものだね? 似合っているじゃないか」
「そう、ですか? しぃちゃんが僕にって選んでくれたものなんです」
「おっと、そうだったのか。それは良いものをもらったじゃないか」
照れながら須賀とシオリは二人を席に案内する。どこか照れる表情ですら似ているような
二人と自分たち。佐久間はきっとこの二人なら問題ないだろうと安堵の息を吐いた。
食事会はつつがなく進む。途中、須賀と佐久間がカトラリーの使い方を忘れてしまったり、メインディッシュの子羊肉の汁がシオリの洋服に飛んでしまったりと、そんなことがあったりしたけれど、それは予想の範囲内。話ながらも食べ、あっという間に残すはデザートだけになった。
「お姉さん、今日は本当にありがとう」
「ううん、私こそ……その、佐久間ちゃんと望月さんが付き合ったのは知ってたけど、まさか須賀くんから望月さんに勝負を挑んでただなんて、申し訳なくて」
「別にそれぐらいは良いよ。勝負を受けたのは洋介さんだし。全く、管理人も何でそんなことをしたんだろうね」
「そうだね」
ふふっ、と笑い合う。須賀は申し訳なさそうにしていたけれど、望月はまあまあと須賀を慰めるようにしていた。初めてのお酒の席だったのだから仕方が無い。これから気をつければ良いのだと望月は言うが、須賀は実は望月に連れて行ってもらって以来お酒を飲んでいないし、今日だってレストランに事前に頼んで、ノンアルコールのものを注いでもらっていたのだった。自分にはお酒は合わない。須賀はそう思っている。
最後に、シェフの特製デザートと、オーケストラ演奏をお楽しみください。ウェイターがそう言いながら料理を持ってくる。佐久間はなんだろうと思った。確かにこのレストランでは生演奏が聴けることとなっている。だけれどそれは別料金を払ったお客様にだけ準備されるものではないのか。驚いて目を丸くしていると、須賀とシオリがいたずらが成功したように笑みを浮かべた。
「お姉さん、どういうこと?」
「今日って佐久間ちゃん達が付き合って半年でしょ?」
「そうだけど」
「だから、サプライズしたくなっちゃって。いつもお世話になってるし、そうじゃなくても友達のおめでたい日だし、私たちも結婚半年祝いだし、ね?」
「ね? じゃないってば。お姉さんもだけど、管理人もね!」
くすくすと笑う須賀に佐久間は恥ずかしくとも嬉しく思う。勿論望月に対しての思いとは違うけれど、須賀もシオリも大好きだし、幸せになって欲しいと思っている。ただ、それを言葉にすることはない。それなのに、この自分より少しだけ年上の大人達は平気で行動に移して自分の幸せを願ってくれる。望月をチラリと横目で見ると目が合い、思わず目を背けて、オーケストラの演奏に耳を傾けるのだった。
