100本ノック2(後半) - 2/5

リップ

「んっ……」

「リツカ」

 立香の部屋。ベッドの端に座った立香に対して、サンソンはリップを塗る。立香の唇がガサガサになって切れていたから。そして、たまたま新品の色付きリップを医療班から貰っていたから。そんな理由でつけられたそれに、ピンクで潤んだそこに、思わず引き寄せられる。

「サンソ……んッ?」

 唇の端から口づけ、そのまま舌でリップを舐め取るようにサンソンは深く口づける。立香は全くそういったそぶりも見せずにしてきたこともあり、息も絶え絶えになりながら、サンソンの胸をそっと押したのだった。

「は……ぁ、……さ、ンソン?どう、したの?」

「ッ、リツカ、すいません」

 つい。そう続けつつ、サンソンは頬を赤くする。立香はそれに首をかしげるけれど、すぐにそれを止められて、ティッシュで口元を拭われるのであった。

「んー!んー!」

「重ねてすいません、リツカ。ただ、僕がしたものだとしても、あまりにも」

 乱暴されたことがわかるだろう状態に、無垢で無邪気な様子で首をかしげる様子。そんな立香の姿が、僕にとっては目に毒だったもので。 手早く吹いたティッシュはゴミ箱に落として。表情を意識して無くしたサンソンがリップを手早く一度塗り直す。それは手早いものであったが丁寧で。鏡をそのまま渡されて口元を見た立香は感嘆の声をあげるのであった。

徹夜の日

「ふぁ~あ」

「そろそろ寝てください」

「ううん、まだ。いや、あと少しだけだから」

「ほら、ここ文字を間違えていますし、それはキーボードじゃなくてテンキーですよ?」

「え?あ、本当だ、ありがとう、サンソン」

 徹夜で資料を作っている立香にサンソンはため息をつきつつ、あまりにもな間違えを指摘する。立香がさっきまで飲んでいたブラックコーヒーを、間違えて手で倒したりしないようにベッド脇のサイドテーブルに置きつつ、うなりながら眉間をもむようにしている立香に声をかけた。

「どういたしまして。それで休憩は?」

「それは、できないかな」

「どうしてですか?」

「それは、これが終ったら明日と明後日がオフになるからなんだ」

 明日と明後日、と言ってももう今日か。と笑いながら欠伸をする立香。その眼はどこか焦点があっていない気さえする濁った眼になっていた。

「ですが、効率が下がったり、リツカ自身が体調を崩してしまっては元も子もないと思いますが」

「わかった。じゃあ、仮眠だけね」

1時間経ったら起こしてほしいとリツカは頼んでベッドへ向かう。掛け布団の上にそのままうつぶせに倒れこむ。相当疲れているのだろうけれど、先ほどまで飲んでいたブラックコーヒーが効いているのか、目は開かれていた。

「……ベッドに入っても眠れるかわからないんだよね」

「わかりました。僕が一緒に寝たらいいのですね?ひとまず目を瞑って、それで川の流れや森の風景でも考えましょうか」

「川、森……」

サンソンが一緒だと、なぜか眠れるんだと言われてから、本当に立香が眠れなくなった時には、サンソンが眠るまで一緒にベッドにいるようになってもう長くたつ。それを理解してサンソンがベッドに一緒に入ると、リツカは目を閉じてすぐに寝息を立て始める。その眼には隈があり何とも言えない気持ちにサンソンはなった。

「気絶するほどに無理をするのは感心できません。せめて、この隈が薄くなるぐらいには寝てもらわなければならないですね」

一時間で起こしてほしいという立香の願いを聞くことはできない。せめて6時間は寝かせよう。その間に自分でもできる資料づくりは終わらせてしまって。そう思い

 ながらサンソンはベッドからそっと抜け出ようとする。そうした時、リツカの口から言葉がこぼれる。

「ん……さ、そん」 いったいどんな夢を見ているのだろうか。えへへと口元を緩めて人に見せられないような顔をしている立香を眺めて、サンソンは心配になるとともに、愛おしく思うのであった。

甘えたい

「シャルロ、もうそろそろ」

「あともう少し、ダメですか?」

 ぐりぐり、ぐりぐり。後ろから抱きしめられる。苦しくはないのだけれど、二人きりで部屋に帰った瞬間にベッドの端に座らされて、後ろから抱きしめられてこの体勢である。立香からしたら、抱きしめられることは嬉しいけれど、そろそろ押し付けられる頭に息苦しさを感じ始めてきたのだった。

「シャルロ、シャルロ?」

「……」

「どうしたの?」

「すいません。少し恥ずかしいので、あともう少しだけ、このままで」

 確かめるような声色に、仕方がないなぁと思ってしまうのも自分で。肩に乗ってきた頭をなでながら、立香はいいよと呟く。

「あの、ですね……とても恥ずかしいことなのですが、立香は僕のものではないんだなと思ってしまいまして」

「うん」

「マスターはマスターなんだなと。時々そう思ってしまうのです」

 他のサーヴァント達にも優しくて、自分だけのマスターではない。普段の聖杯戦争ではありえない状況でしょう。ですが、現状はそうなっている。

 サンソンの言葉に立香は納得をする。そういうことなのだろう。サンソンはきっと、恥ずかしいことだろうし、自分から聞きはしないことにするけれど、マスターとサーヴァントの一対一で、もっと言ってしまえば藤丸立香を独り占めしてしまいたいと思っているのだろう。  立香はそんな気持ちに気づいたとは言わずにサンソンの頭を撫で続けるのであった。

一人の少女の夢

「リツカ。あともう少しですよ、だから、起きていてくださいね?」

「う、ん……ごめんね、さん、そん」

 切られた腹部から流れ出る血の量に、スキルを使っても止まらない血と侵食する毒と呪いに、もう助からないだろうと誰もが思う。多く魔力を使うものはすでに自ら退去をして、なるべく最後までマスターを守れる魔力消費量が少ないだろうものを残していった。そうして残ったのがサンソンとロビンフッド。二人はマスターを抱えながら敵の罠から、包囲網から逃れ、森の中のもう壊れた教会へたどり着く。そこはマスターと最後に休憩を取った場所で、雑談がてらに話していた場所であった。

「私ね、普通に結婚して、普通に子供産んで、それでおばあちゃんになる。そう思っていたんだ」

「今から結婚?そんなこと無理だって。だって、私みたいな傷物、たとえ世界が元に戻ったとしても誰も欲しがらないでしょ」

「だけどね、そうだなあ。例えば、例えばの話ね……この旅にも最後が来るんだったら、好きな人と、こんな壊れた教会でもいいから、ちゃんと愛を誓いあって、一瞬でいいからその人の一番になりたい。そう思っちゃうんだよね」

 そう思っちゃう。その最後がそのあとすぐに来るなんて誰が思っただろう。

呪 いと毒にまみれた魔獣に噛みつかれ、腹の半分を食いちぎられるマスターにすぐに反応できたものはおらず、マシュも他の魔獣に囲まれて消えてしまった。彼女の方は無事だろうと無理やり思うことにして、マスターに駆け寄って、スキルで治療するも治ることはなく。欠けた体のパーツも呪いに侵食されて腐り落ちてしまった。直すことはできない。慌てるようにマスターを抱えて逃げ出し、他に戦闘は任せて。走る。走る。

そうして戻ってきた廃れた教会で。もう間に合わないと分かった状態で。二人がとれる事といったら。

「マスター、いえ、リツカ」

「なん、だろ。さんそん?」

「いまはシャルロ、と」

「えっと……?」

 ぼんやりとカスミがかかったような頭で立香は思う。噛まれた後に運ばれて。それで……?

 ここがどこだかも分からない。自分と同じオレンジ色みたいな髪の毛はおそらく、一緒にいたサーヴァントのロビンだ。でもなんで?

 分かることと言ったら、カラフルな光と、静かな空間。それからロビンが発する声。

「まさかこんな……いーえ、やめておきましょうか。じゃあ坊ちゃん、アンタはそこのマスター。藤丸立香を妻とすることを誓いますか?」

「ええ、勿論」

「それで、マスター、立香はシャルル=アンリ・サンソンを夫とすることを誓いますか?」

 オレンジ色の影が動く。こちらを見ているのかもしれないし、ほとんどその言葉は聞き取れなかった。でも、この光。そして、誓うかという言葉は聞き取れて。

「は、ぃ」

「じゃあ、オタクらは晴れて夫婦ですね。ちゃっちゃと誓いのキスでも何でもしてくださいよっと」

 神父役はこれ一回でこりごりですわ。そう言ってロビンは祭壇から降りる。サンソンは、だんだんと濁っていく立香の瞳を見てから声をかけ、そうして立香の吐いた最後の息を食らうように口づけを落としたのだった。

「せん、ぱい?」

 魔力が途中切れつつも、何とか魔獣たちを薙ぎ払い、走り続けて。そうしてようやくついた、マスターが逃げたであろう教会の扉を叩く。反応がないことでマスターがいないとは思わない。きっといるはずだと、警戒しながら扉を開くと、そこには。

 花冠を頭に乗せ、野草の指輪をはめた藤丸立香が一人、笑みを浮かべていたのだった。

一人の少女としての幸せ

「ごめん、サンソン、かくまって?」

「えっと……?」

 突然開かれたサンソンの部屋の扉と、その扉を開いた立香。サンソンは机で書類の記入や整理を行っていたところに来た立香に驚きつつも、部屋へと招いた。

「ありがとう、サンソン」

「いえ。突然で驚きましたが大丈夫ですよ。それより、かくまってというのは?」

「それなんだけど、ナーサリーちゃんたちと遊んでいたんだけど」

 レクリエーションルームで始まった、子供サーヴァント達とのかくれんぼ。けれどそれは普通の遊びより本気で。最初の鬼役は藤丸立香であったのだけれど、ほとんどが霊体化をしてどこにいるかもわからない状態。結局立香が降参するまでほぼ誰も見つからなかった。そうして次は立香が逃げる番となったのだけれど、鬼役が霊体化をしてあたりを探し始めたのだった。

「それは、何と言いますか」

「流石の私でも探すのは無理だし、そもそもどこにいる

のかもわからないから。霊体化は禁止って決めておけばよかったかな」

「そうですね。それは、今度のゲームからそうしたらどうでしょう」

 まだそれは続けるのでしょう?サンソンは問いかける。立香は体力が続く限り、みんなが楽しんでくれる限り勿論そうするつもりだったので頷く。

「うん、そうさせてもらおうかな」

 どうぞ。立香と話しながら淹れていたカモミールティーをサンソンは立香に手渡す。いつも立香はそうである。みんなが楽しめるなら。そう思って行動をする。それはよいことでもあるのだろうけれど、それでもサンソンは心配になる。こんな些細な事でも、立香は自分の心をつぶしていないだろうか。自分の求めるものを無意識に天秤にかけていないだろうか。

 自分がいつか立香に言った言葉。自分は立香を測る天秤である。その言葉に偽りはないし、今でも立香のことを見定めようという気持ちは変わらない。けれど、サンソンのそんな想いとは関係なく、立香は自分と正しい世界を天秤にかけて、世界を選んで、一人の少女としての幸せを捨ててしまっている可能性がある。それはサンソン個人にとっては望むものではない。  ありがとうと言って紅茶を受け取る立香を眺めながらサンソンは、願わくばこの少女に一人の人間としての幸せあれ。そう思うのであった。

生クリーム

イチゴを一番おいしく食べるとしたら、どう食べるだろう。そのまま食べる。そこに練乳をかける。イチゴ牛乳なんて言うのもおいしいかもしれない。けれど、私は。

「ん~、おいしい!」

「リツカは本当にショートケーキが好きなのですね?」

 ショートケーキ一択じゃないかなと思う。サンソンと二人きりのお茶会。場所はシミュレータだけれど、いつもマリーちゃんたちがお茶会をしているバラ園を背景に一緒にケーキを食べていた。

「うん。でも、サンソンも同じのにしたんだ。珍しいね?」

「ええ。いつも同じものでは、と。それに、リツカと一緒のものを食べたいと思ったので」

 サンソンは口を大きめにあけながら、ショートケーキを一口、口に入れる。けれど、そんなサンソンの口元には生クリームが付いており。

「サンソン、ちょっといい?」

「どうされました?」

「ここ、ここにクリームついてるよ?」

「え?本当ですか?」

 子供みたいにべっとりと口中についているわけではないけれど、それでもいつも完璧で紳士なサンソンがそんな姿を見せるとは珍しいなと思いながら、笑みを浮かべる。対して目の前のサンソンは、クリームをつけているのがよっぽど恥ずかしいのだろう。慌てて口まわりをハンカチで拭おうとしているけれど、それでも拭いきれずに残っている。それがおかしくて、ますます笑いが引き起こされた。

「ふふ、ふふふ」

「リツカ、ひどいじゃないですか」

「だって、サンソンが、珍し……ふふふ」

 口の端にクリームをつけたまま。怒るサンソンに、ちょっとこっちに来てと呼び寄せる。顔を赤くして近づいてきたサンソンに近づき、そうして生クリームをぺろりといたずらに舐めとった。

「な、なっ……」

「えへへ!たまには私からこういうことをしてみようと思ったんだけど、……どうだ!」

 いつもやられてばかりだから、たまには。挑戦的にサンソンを見上げると、口をはくはくと動かして呆然としていたサンソンが、以外にも負けず嫌いで意固地なサンソンが、顔を出す。

「どうだ、と言われましても。立香もずいぶん大胆になりましたね、としか」

「だ、大胆って……!」

 恥ずかしがらないように、それを顔に出さないように

していたのに。その一言で顔に熱が回る。そうして二人して顔を赤くしつつも、気を取り直してお茶会は進んだのだった。

待ち合わせ(現パロ)

「さっむい」

 雪が降るのではないかという底冷えする寒さの中。駅の北口でサンソンを待つ。本当は帰りたいけれど、今日はサンソンとのデートであって。その日をずっと楽しみに予定としていたのだった。

「うぅ……どうしてこんな日に限って電車遅延」

 サンソンが乗ってくるはずの電車の遅延。確か理由は強風による徐行運転だったかなと思い返す。今日は底冷えするだけではなくて、北風も強く吹いている。まさにデートには不向きな日なのであった。

 ピロンピロン。そう、立香のコートのポケットから音が響く。立香はメッセージアプリを慌てて開いた。相手はもちろんサンソン。

『駅に着きました。今どちらにいますか?』

「よかった。ここには着いたんだ。えっと、今は……」

 駅の北口改札前にいます。そう打とうとして、動かない手に気が付く。手がかじかんでうまく動かない。一文字、一文字。ゆっくりと打つと、ずいぶんと時間がかかってしまった。

 ようやく打ち終わって、送信の文字を押すと響く、携帯初期設定の着信音。それは立香のすぐ後ろから響いていた。

「すいません、リツカ。こんなに冷えるまで待たせてしまって」

 後ろからぎゅっと抱きしめられ、立香の手にサンソンの手がしっかりと絡む。立香はあまりの寒さからか、サンソンが絡めてきた手を痛いと感じたが、それも一瞬。嬉しさがこみ上げる。そうして上を向いた。

「おはよう、サンソン。確かに待ってはいたけど、来てくれて嬉しいよ」

「……リツカ」

 ぎゅっと握られた手に力が籠められる。ほとんど感覚を無くすほどに冷たくなったそこは、あまりサンソンの体温を感じることができなかった。むしろサンソンからしたら氷を握っているように冷たいだけだったけれど、立香は満足をする。

「さて、本来でしたら動物園に行くことになっていましたが、先に……喫茶店に行くことにしましょうか」

「そうだね、ちょっとだけ寒いし」

「ちょっと、ではないでしょう?」  立香がしっかり温まるまではそこにいますからね。そう手を繋いだまま二人は喫茶店へと向かうのであった。

待つ

「ただいま、サンソン!」

「おかえりなさい、リツカ」

 サンソンとの絆も十五となり、寂しいと思いつつ、彼を主軸とした戦闘方法を変更することとなる。終局特異点での戦闘。そこでは計測される絆の値が大きいほど、戦力が上がっていた。再びそのような戦闘が起こったときのため。立香個人の意見も聞き入れられてはいたが、夢火すら受け入れることができなくなったサーヴァンとは待機するように、という判断が取られていたのだった。

 現在サンソンを含めて絆の値が十を超えているサーヴァントは九騎。先日の戦いで十五となり、夢火を受け付けなくなってしまったサンソンは、待機組へと移動することとなり、立香と過ごす機会も必然的に減っていった。それをカバーするように、夜の逢瀬も増えていったのだった。

 自分の部屋の警護をするサーヴァントを立香は特に考えなくサンソンに決め続けていたけれど、今は意識的に。他のサーヴァントにも変えずに、本日も同じように選んでいたから帰ったらサンソンがいる。そこまでは予測で来ていた。けれど……。

「きゃっ!どうしたの?」

「すいません」

 マシュと別れて部屋に入った瞬間に抱きしめられる。それを立香はさすがに予想できておらず、ただただ肩に乗せられたサンソンの頭の重さを感じることだけしかできない状態であった。

「その、思っていたより立香と一緒に過ごせないことが、堪えていたようでして」

「……そっか」

「すいません」

 立香も寂しいとは思っていた。夜に恋人として一緒に過ごせる時間はとても安らぐ時間である。ただ、戦闘訓練中にサンソンを呼ぶことができないことにも少しだけ、ほんの少しだけストレスを感じていたことも事実であって。

「ううん、私は気にしていないよ。だって、私だって」  寂しかったから。やっぱり一緒にいたいから。抱きしめてきていたサンソンの背中に腕をまわして、片腕では頭を撫でつける。珍しいこともあるとは思いつつ、自分だって寂しいのは同じで、こうしたかったのも事実である。立香はもっと、と甘えるようにサンソンの肩に頭を預けたのだった。

願い

「また負けちゃった!」

「マスター、また負けたのかい?さすがにこれはグリーン以上にカm……じゃなかった。いいように利用されちゃうんじゃないかな?」

「今なんて言いましたか?聞き捨てならない台詞が聞こえた気がしたんですけどねえ?」

 賭けトランプのババ抜き。サンソンの静止を振り切って、立香はビリーやロビンフッドたちと、それをすることとなり、サンソンも結果として付き合うこととなったのだった。

「じゃあ一位がビリに一つ命れ……ってこれは僕たちはお邪魔かな?」

「え、どうしたの?ビリー君?」

「いやぁ、これは、ねぇ?」

 ボードに貼られた対戦表と、その順位。それを見た立香は驚愕する。立香がビリなのはもともと理解していた。もとより全敗だったからビリであることは分かってい

たけれど、一位はなんとサンソンであったのだ。

「いやぁ、細工をしていたけれど僕が僅差で二位になるとは、流石じゃないか」

「いえ、そんなことはありませんよ」

「なんだい?マスターに、僕からどんな命令がされるのか気になって本気を出していた君らしくない回答じゃないか」

「そんな、ことは」

「まあいい。さて、君はどんなことをマスターにお願いするのかな?」

 サンソンがマスターにするお願いは。いつの間にかあたりから集まってきていたサーヴァント達によって、場は盛り上がる。自分だったらこうする、などという声に危険なものも交じっているけれど、それを立香は聞き流しつつ、サンソンの言葉を待った。

「僕は」

「うん」

「いつものように」

「いつものように?」

「ええ。リツカにいつものように過ごしてほしい。これが僕の願いです」

 ええ~。場がしらける。サンソンと立香の仲は、立香が秘密にできないこともあって公認となっており、その公認カップルが公然で何やら面白いことになっていたのだが、願われていたのはあまりにも日常のこと。サーヴァント達は散り散りになっていった。

「なんだい、つまらないなぁ。もう少し面白いことを願ったりしないのかい?」

 ビリーはサンソンにだけ聞こえるように問いかける。サンソンはそんなビリーに対して一度睨むような眼を向けた後、目を瞑って答えた。

「公然で、リツカが恥ずかしがるようなことはしませんよ。それに、僕のお願いでしたらあとで二人きりの時に聞いてもらいますから」 ヒュー、やるじゃん。ビリーはやっぱりサンソンにだけ聞こえるようにつぶやいたのだった。

期待

「んっ……んん」

「はっ、ぁ……リツカ」

 もっと、と珍しく甘えるように鼻をすり合わせてから口を合わせてくるサンソン。それに続きを考えて胸の高鳴りを覚えながら応えていると、舌を吸い上げられるように動かされる。そのままどう動かしたらと迷っていると、舌と舌を絡め合わせられ、ざらざらとした部分で、下あごから舌の裏までを刺激された。

「んんっ!」

「っ、すいません。ダメ、でしたでしょうか?」

「はぁ、はぁ。だ、め……じゃ、ないけど、ちょっと、その」

「気持ちよすぎた、でしょうか?」

「……、うん」

 舌裏に伸ばされた舌によって刺激された瞬間、びりびりと痺れるように感じて、声を発したまま、くたりと力が抜けてしまった。それが気持ちよさだと知ったのは、目の前のサンソンによって与えられたそれ以上の行為からであったけれど、それを彼に指摘されるのは恥ずかしく。つい言葉に一瞬詰まってしまったのだった。

「リツカ。ダメでないのであれば、もう一度いいでしょうか?」

「えっと、キスを?」

「ええ」

 これだけでこんなに気持ち良くなっているのは恥ずかしいなと思いつつ、もう一度と近づいてきたサンソンを受け入れる。気持ちよく、もっと気持ちよくなりたいな。それに気持ち良くなってほしい。

恥ずかしがる心とは反比例にそう思ってしまう自分を隠しながら、サンソンの首に腕をまわして、彼の耳を塞ぐのだった。

71,かみ殺す(R-18)

「ふっ、ん……んんっ、ん」

 唇を噛まないように、でも声は出さないように。むき出しになった背中を舐められ、そのまま首筋に跡をつけられながら、奥を突かれる。行為前に汚れたら嫌だからと外して左腕に着けた黒いシュシュを思わず噛みながら声を出さないように耐えていると、奥を突いていた動きがゆっくりになり、やがて止まった。

「リツカ……?」

「な、……に?ど、したの、しゃるろ?」

「いえ。また口を噛んでいると思ったら、髪留めを噛んでいたので」

 シュシュから口を外して答えようとすると、シュシュと口の間に銀の糸ができる。それを見ただろうサンソン

の、膣内に挿いっているものが大きくなった気がしたけれど、それに言葉で反応する余裕もなく。ただ、びくりと足を震わせるだけで精いっぱいとなっていた。

「ああ、すいません。リツカ」

「ん、いいけど」

「今日は、僕もどうしても止められなくて、ですね」

「激しくしても、いいよ?」

 後ろから突かれるこの体位にも慣れたし。そう言いながら今度はシュシュを噛まないように、手の近くにあっ

たシーツのしわに口を持っていくと、それを止められる。

「シャルロ?」

「いえ、リツカの声を聞きたいなと」

「それは、今日はちょっと恥ずかしいのだけれど。ダメかな?」

「いつもでしたらいいというのでしょう。でも、今日は」

 ぐちゅり。最初より興奮しきったそれが、子宮口にディープキスをするように押し付けられる。先端同士が合わさって押し付けられるような感覚から「あ!」という声を出して、耐えられないというように、上半身をサンソンへとひねって向ける。

「しゃるろ♡」

「ああ、リツカ。本当に貴女はかわいらしくて、それに、僕の理性を、奪うのが得意ですよね」

 足を抱えられて、上半身と同じようにひねられる。そうして正常位から足を肩に抱えあげられて、そこにキスを落とされた。そのまま片手はクリトリス。もう片手は腰を逃げないようにと押さえられ、ぐりぐりと刺激される。

「あっ、ゃ、あっ!あ!」

「はぁ、リツカ。ここを、刺激すると、ぎゅって、締められます、ね?」

「ゃっ、そ、れは……!」

 恥ずかしい、恥ずかしい。出てしまう声に、刺激される気持ちよさに反応して彼を締め上げてしまう膣内に。それからそんな私に、普段とは違った興奮した様子で腰を打ち付けてくるシャルロの姿に。  ぐりぐり、ぐちゃぐちゃと。おかしくなってしまうぐらいに、何が何だか分からなくなってしまうぐらいに、求められ、高められていくのだった。