SSまとめ - 6/6

「もちろんだよ」

 藤丸立香は、真っ暗闇の中飛び起きそうになった瞬間、自分が見たものが夢であったことに気がつき、ぎゅっと胸の前で手を握りしめた。隣で眠っているであろうサンソンを起こさないように、ゆっくりと呼吸を整え、ばくばくと未だになり響く心臓に、あれは夢だから、現実ではないから、と頭の中で唱えつつ、すがるようにサンソンのシャツの裾に手を伸ばす。

そう。夢だったのだ。

 立香がいつものように、自分の部屋へやって来るサンソンを待っていると、彼がやって来る。しかし様子がおかしい。それを問うと「別れましょう、マスター」と言われる夢だなんて。

 現実では彼と共に時間を過ごし、同じ床で眠りにつくような仲であり、お互いに気になることがあれば言い合えるような関係でもあると思っている。突然別れを切り出されることなど無いのだ。

 それでも立香は不安からそのままシャツを小さく引っ張る。困らせたくはないけれど、ただ、何の考えもなしに袖の端を引っ張ると、小さくサンソンが動いた後に、突然立香を抱きしめる。

「どうしました、リツカ。ずいぶんと顔色が悪いようですが」

「う、うん。その、ごめんね。こんな時間に起こして。それで、その」

「ええ。ゆっくりで良いですから。」

 落ち着いてきたら、話してください。その言葉と共に立香の背を落ち着けるようにと撫で付ける。それに合わせるように立香はゆっくりと呼吸を紡ぐ。

「その、ね。そんな事はないし、私からは不満もなにもかもないんだけど、……サンソンから別れて欲しいって言われる夢を見ちゃって」

「ええ」

「それで、嫌だって思っても声がでなくてそれでうまく言えないうちに起きちゃってね」

「そういったことだったのですね」

 サンソンは、立香の負担にならない程度に抱きしめた腕に力をこめる。

「不安にさせてしまってすいません。確かに僕の身体は仮初めのものでいつかは別れなければなりません。ですが、それでもあなたのことを愛おしくて仕方ないと感じてしまうのです。僕から別れを切り出す?そんなことなんてあるわけがない」

 僕の方こそ嫌われてしまうほどにあなたのことを好いているのですが、嫌わないでいてくれますか、とサンソンが立香に問いかける。立香の答えは。