61、翅
嘘つきの王様。誰にでも優しい王様。借金王。
こんな評判やらあだ名がついている妖精王オベロン。今日も今日とて大きな翅を広げてカルデアを歩いている姿を後ろから眺める。子供達に囲まれて、笑顔を向けて。少しばかりめんどくさいと思いつつも、そういう子達を無下にできない。
秋の森でもそうだった。後は消えるだけの虫妖精達に手を差し伸べて、ぼーてがーんと慕われた彼。時々雑な行動も取るけれど、それでもそれは他人を思ってのことだし、全く以て世話焼きの彼である。
翅を引っ張られて苦笑しつつそれを咎める彼を眺めながら、今日も良い日だななんて考えていると、ふと彼と目が合った気がした。
「あ~、もう、めんどくさい」
「第一声がそれ?」
あんなに外ではいい顔をしていたのに、私の部屋に来た瞬間にこれである。部屋に来て急に膝に寝っ転がって来た彼を上から眺めつつ、残念を通り越して、もはや底のないところを落ち続ける奈落、みたいな評価を与えたくなる。普段より神経を使ったのだろう。ちょっとだけ彼の頬の筋肉がひくついているように見えて、笑いがこぼれた。
「おい、何で笑ってるんだよ」
「だって……オベロンも頑張って笑顔を向けていたんだなって思うと……ふふっ」
「そこ、笑うところかよ」
きみの笑いのツボ、他の人よりちょっとずれてるんじゃないか? そんなことを問いながらもオベロンは膝の上でごろついている。そして、背中の翅は嬉しそうにパタパタと動いていた。
「ねえオベロン」
「なんだよ、余計なこと言うなよ?」
「翅……」
「だから余計なことを言うなって言ってんだろ!? 怒鳴らないと分からないってわけじゃねえよな!?」
ピーン。まるで威嚇してくる猫の尻尾のような動きをするオベロンの翅。本当にわかりやすいなあ。
「ごめんって。分からないわけじゃないし、もう言わないから。ほら」
「……」
逃げられる前に彼の頭を抱きしめるようにし、そのまま髪を撫でつける。彼は大きくため息をついた後、力を抜いてされるがままとなったのだった。