91、連れてって
「これで終わりなんだね」
あっけなかったなと笑う。人理修復を終え、異聞帯を進む旅も終わりを迎え、人類最後のマスターはただの一般人に……なんて都合の良いことはなく、藤丸立香というただの女の子であった一般人は封印指定を受けることになったのだった。
カルデアのバックアップがあったとしても、普通は召喚されることが無い相手とも縁を結び、髪の毛一本だったとしても数多の英霊の召喚の触媒となる状態。英霊達に愛された英雄となった少女。それが現在の藤丸立香であった。
「はああ……世界は平和になりました。こんな終わりでよかったのかな、オベロン?」
「きみが良かったならいいんじゃない?」
「私が良かったら、か」
考え込むように立香は目を伏せる。
長い旅だった。苦しかったことも多かったけれど、英霊達と出会えたこと、彼らが人生の一部となったことは幸せなことだった。封印指定を受けたからと言って、まだまだこれからなんだけどな。自分で一瞬考えてしまった『終わり』を想像して苦笑いを浮かべる。封印指定。言葉としては理解できるが、どんなものなのだろう。一生牢屋に閉じ込められるのかな。せめて日の当たる場所だったらいいな。冷たく、暗い。そんな場所で一生を過ごすのは苦しいものかもしれないと思った。
「ねえ、マスター?」
「ん? どうしたの、オベロン?」
「マスターはどんな終わりを望むんだい?」
「終わり?」
「ああ、きみはこれから自分の意志で動けない場所に行くかもしれないんだろ? それだったら、それより住み心地が良い場所があると思うんだけど」
「……、もしかして」
「そう。俺の奈落さ」
全てが終わったら奈落に連れて行って。
いつかした約束を思い出す。それは冗談とも取れるような小さな約束。第六異聞帯で落ちて行く彼を見送った際、心の中で思っていたこと。それを、そんなことを覚えていてくれただなんて。
「忘れたと思ってた? きみの中の俺はずいぶん薄情なんだな?」
「ごめんって。……じゃあさ、今でもその約束……私が一方的にお願いした事だけど、守ってくれるなら」
「ああ」
「私を奈落に連れて行って?」
幸せな終わりを望んだ少女と、そんな彼女と対峙した青年。カルデアのもの、時計塔のもの、世界の中で少女の特異性を知っているもの。そんなものたちが異変に気がついたとき。すでに少女と青年は姿を消していたのだった。