5、抱擁
時々ふと寂しくなる。それは一人で過ごしている時だけでなく、皆と過ごしているときや食事をとっているときにも訪れるのだ。どうしてかタイミングよく彼はその場にいて、ささやかに触れてくれたり、二人でさりげなく席を立って移動したりするのだけれど、今日はそれでも足りないぐらい心に隙間風のような寒さが染み渡り、つい彼の白い外套に潜り込んで、彼自身を抱きしめてしまっていた。
「今日はどうしたんだい? ずいぶんと……欲情しているみたいだけど」
「欲情って」
「違いないだろ。それともなんだい? きみは誰にだって抱きつく性癖を持ってるのか?」
「そんなことはないけど」
ないけれど、それでも欲情という言葉に違和感をもつ。人間の本能として生殖活動があるけれど、これはそれとは違う何か。そう思ってしまうのだ。ただ、ぎゅっとして欲しい。それだけ。それ以上は求めない。これは別にマスターだからとかそういうことではなくて、ただ、今はぎゅっとして欲しいだけ。それだけなのだ。この想いを口にする。
「それは性欲に基づくものだろ」
「そう、なのかな?」
「まあ、人間的な独特な欲求ではあるだろうけど、どっちも変わりないんじゃないか? 最終的には繁殖行動に向かうんだろ?」
言葉とは裏腹に外套の中で彼の腕が背に回された。そのままぎゅっと力強く、痛いぐらいに抱きしめられる。
ちょっと苦しい。そう思いつつ、彼の顔をこっそりと見上げた。その顔は何かに満足しているような笑みを浮かべていたのだった。