6、冷たい体と温かい心
「はぁ……」
凍えるような寒さを感じて手に息を吹きかける。ほんの少しだけ湿った暖かさを感じて、そのあとすぐにもう一度寒さが襲ってきて縮こまる。
藤丸立香とオベロンは二人並んで誰もいない薪小屋で休んでいた。こうなったのは極寒の地にレイシフトしたからであり、レイシフト適性があるはずのサーヴァント達が弾かれ、オベロン以外が近くにいない状況となったからであった。ともすれば足首より上までが雪に埋もれる状況。礼装を纏っていたとしても寒さが浸食し、眠気が襲ってきた辺りでオベロンに立香は捕まれた。そうしてそのまま俵担ぎの要領で薪小屋まで運ばれたのだった。
「ふう、僕としてはこんな寒さの時のために用意していたと言われてもおかしくないような服を着ているから良いけど、マスターはどうにかならないのかな?」
「どうにかって言われても」
自分だってどうにかできればどうにかしている、と立香は思いながら素足が剥ぎだしになっている部分を冷たい手で擦る。まだカルデアでレイシフトしていた頃の方がまだましだったよな、と黒いタイツに想いをはせていると、白い外套が投げられた。
「……?!」
「何? きみにこんなところで死なれでもしたらサーヴァントとして恥だと思っただけだし、帰ってから他の奴らに酷い目にあわせされる。そう思ったから渡しただけだよ?」
「まだ、何も言ってないんだけど」
「きみの顔を見れば何が言いたいかなんて分かるだろ。意外そうな顔してたからね」
そこまで意外そうな顔をされるだなんて心外だとオベロンはそっぽを向く。ひとがひとなら顔を真っ赤にしたりしているのかな。そう思って立香はオベロンの横顔をそっと見るけれど、顔色一つ変えずに何かを考えているようだった。
「なーんだ、つまらないの」
「なにがつまらないのさ。あいにく僕はきみに執心している奴らとは違うからね。ただの契約上の関係だろ?」
「契約上の関係にマントを貸してくれることも含まれるんだ」
「そう思うんだったら返してもらっても良いかな?」
「あっ、ごめんなさい」
怒りがこみ上げたような声に、慌てて外套の端と端を合わせる。余計なことは言わない方が良い。もしかしたらこの温かな外套を剥ぎ取られてしまうかもしれない。そう思いつつ外套の前をさらにぎゅっと寄せた。
暫くして風が入ることがなくなったからなのか、少しだけ暖かさも戻ってきたよう。それを分かったのかオベロンもどこか満足そうな顔をしている。そんな中、藤丸立香は眠らないように適当な話をしつつ、ただただ彼から与えられた優しさにくるまっているのであった。