7、「くちにするのはきみだけだよ」
キスをされるなんてこと、今まではほとんどなかった。それも親愛のキスや敬愛のキス。勿論唇に触れあうキスなんて、オベロンと付き合うまでしたことがなかった。それなのにこの男は。
藤丸立香はベッドに押し倒され、オベロンの少しだけいらだったような顔と天井を見つめていた。どうしてこうなったのかは分からない。数分前まで立香はナーサリーライムやバニヤン達と仲良くおしゃべりしていた。
物語の王子様とお姫様のお話。口にされるキスもあれど、手の甲に落とされるキスは一体どんな意味なのかしら。そんな会話からナーサリーが立香の手を取って、ごっこ遊びの延長線上として口づけを落とす。そんなかわいらしい姿をオベロンは遠くから見つめていたのだった
「オベロン、どうして怒っているの?」
「怒っている? きみにはそう見えるんだ?」
どう見たって怒っている。それでもその怒りとは逆方向に首筋を撫でる手、そのままボタンが外された胸に伸びていく手の動きは優しく、官能すら呼び起こされるようであった。
「んっ、……おべ、ろん?」
「もし怒ってるとしたら、きみには心当たりはないのか?」
「全く」
「はあ?」
全くないと立香は思う。ただ、怒るとしたらナーサリーちゃん達と遊んでいた辺りだろうということは目星が付いていたので、その気持ちを込めつつ言葉を選んだのだった。
「マジかよ」
「マジって?」
「きみさ、誰にでも簡単に身を任せるわけ?」
「んん、よく分からないんだけど……もしかして、ナーサリーちゃんがキスしたことに怒ってる?」
「勘違いしているようだけど、俺はまずナーサリーに対しては怒っていない。ただ、誰にでも尻軽なマスターに対しては節度を少し持った方が良いんじゃないかって思ってはいるけどね」
「つまりは、ほいほいとキスをさせるなと?」
「……」
無言こそが肯定か。どう頑張っても言葉が歪んでしまうオベロン。そうでなくても素直でない性格であるからこれには答えられないのだろう。
立香はにやりとしながらオベロンの言葉を発さない口に不器用に口づける。それはオベロンが目を瞬かせた瞬間であった。