12、嘘つきが付いた嘘
普段毒づく彼から口づけなんて受けることは無いと思っていた。それでも私の思いは溢れて、こぼれて。きっと表情や仕草、彼に呼んでもらえたときに見せていた笑顔で気持ちは伝わっていたんだろうなって思うけれど、それでもなんだか悔しくて。私ばかりが彼の一つ一つに心を奪われるだなんて、そんなことあって欲しくない。彼に想って欲しい。そう考えてしまうことは自然だった。けれど、そんなことが無いことも分かっていた。それなのに。
「っ……！！」
「なんだい、そんなに意外だったわけ？」
きみが俺に好意を持っていることなんて丸わかりだったんだけどなあ。それだったらその気持ちにたまには答えてやっても良いだろう。そう思っただけなのに、どうしてそんなにもマスターは嫌悪感を向けるんだい？
触れるだけの、魔力供給にもならないような口づけに呆然とし、どうしてオベロンが、と考えた私に対する答えをオベロンは提示した。私の気持ちに応えるやり方だなんて、そんなこと。
本人が意図していようとしていまいとオベロンの言動は歪む。それを私も彼も理解している。そのことを、すべてが歪んでいるのを分かっているのに、どうしても期待をしてしまった。彼の行為が純粋に私を想って、好意を持ってしてくれたということ。そんなことを考えている私に対して、どこか歪んだような笑みをオベロンは向け、もう一度口づけを落としてくる。
「っ！」
「もしかして、俺がきみのことを想ってこうしたとでも？」
「そう、じゃないの？」
「質問に質問を返すなよ。……俺の言葉は、行動は、最終的に曲がって歪む。それを分かってるんだろう？」
「それは分かってるけど」
その通り。だから期待なんかしちゃいけない。それでも何故かオベロンのこの行動は止まらない。何度も何度も口づけを落とされ、そのままベッドに押し倒される。
「する、の？」
「この状態でしないって選択肢無いだろ。それとも、きみはしない方が良いわけ？」
「……」
「なあ、答えろよ？」
オベロンはずるい。好きな人とキスをして、押し倒されて。それで期待しない方がおかしいと思ってしまうのは仕方ないことなのかもしれない。ただそれはそれとして、目の前の男は「いいよ」と言われるまでは食らいついてこないように自制をしているのが分かった。
「オベロン。オベロン＝ヴォーティガーン」
「なんだよ？」
「私は君のことが好き」
「……」
「オベロンは？ オベロン＝ヴォーティガーンは私のこと、好き？」
「きみのことは、……きみのことなんて、大嫌いだよ」
「えへへ、良かった」
ねじ曲がり、ねじ曲がる。好きが嫌いだったら、さっきの言葉は？ 気持ちに応えてやってもいい、それは真面目なオベロンのことだから、きっと私の気持ちを受け取って、真摯に考えて、これを返してくれたに違いない。
再び触れる唇に灯った熱は嘘か本当か。それは瞳の奥底に熱を灯した彼と私だけが知っている答えであった。