【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(11~20) - 3/10

13、とりあえず、今はこのままで

「べろん、おべ……ん!」

「ん? ああ、きみか」

サーヴァントに眠りは必要ないけれど、それを楽しむことはできる。俺には楽しむなんて感情は必要ないけれど、それでも思考の整理のために瞑っていた目を開く。何も見えない状態から、柔らかくて温かいオレンジ色と、その持ち主であるマスターの姿が目に入る。何がおかしいのかニコニコと擬音が付きそうなほどの笑顔を浮かべていた。

「オベロン、寝てたの?」

「いや、寝てないけど」

「うーん、怪しい」

「何がだよ」

寝ていないと答えただけなのに怪しいだなんて、本当にどうしてしまったのだと思うが、勝手に俺の目は彼女の思考の方角を探っていく。何が怪しいのか。まあ、そんなに深くは考えていないだろう。寝てないって言ってたけど嘘だろうな、可愛いところもあるじゃん、オベロン。なんだこれは。本当にくだらないことを考えてるな。

あまりに何も考えていない、どうしようも無いマスターにため息をつきながらも、彼女の頬に手を伸ばす。ひゃっ、だなんてこれっぽっちも可愛くない声を上げつつ、そのままになっているマスターを横目で見る。そうしてそのまま頬を軽くつねりあげた。

「いひゃい、いひゃいっへ、おへほん」

「君があまりにもくだらないこと考えてるからだろ?」

ぱっと手を離してやる。そうすると捕まれていた頬を空気で膨らましながら、まるでハムスターが威嚇するように睨み付けていた。いや、そんなことをしたとしても全然、これっぽっちも恐ろしくなんか無く、むしろその様子が笑いを誘っているように見えてるからな。くくっ、とそれにつられて笑ってやるとますますふくれ面を晒したのだった。

「オベロン、私は怒ってるんだけど?」

「あれ? それで怒ってるつもり? 俺には笑わせようとしてるようにしか見えないんだけど。むしろ甲板の上であったきみの方が迫力があったとおもうなあ?」

「あれは、それは当然だけど、そうじゃなくて、って何話そうとしてたんだっけ?」

頭の中までクエスチョンマークで埋まっていそうな声をマスターは発する。まったく、なんなんだよ、こいつは。目を閉じていたら声をかけてきて、少しつねってやったら怒りだして、自分の目的も忘れて。全くもって年頃の普通の少女にあきれが浮かぶ。まあいい、今はこんな時が続いていても悪くは無いだろう。せめて目的を思い出させてやるために、行動を復唱した。

「俺は知らないぞ? 鳥頭なきみのことだから忘れても仕方ないけど、俺が寝てるか寝て無いかってことから話が始まったんだよな」

「あ、そうだったね。オベロンが寝っ転がってることならよくあるけど、寝てるのは珍しいし、せっかくだからペンで落書きでも」

「おいふざけんなよ!まだしてないよな?!」

「うん、まだ、してないよ?」

そう答える彼女は何が楽しいのか口元に笑みを浮かべて抱きついてきた。柔らかさ、今を生きているあたたかさ、鼓動を感じる。マスターは気づいていないだろうが、それになんとも言えない、つけてはいけない名前の感情を感じる。

彼女がしようとしたいたずら。それに何を返してやろうかと考えつつ、とりあえず背中でもつねってやろうと、彼女の背に腕を回したのだった。