14、タオルケットに阻まれて
「っ……!」
近づいてくる美形の顔につい目を瞑る。それでもわずかな抵抗として顔を覆うと、怒りを込めた声が聞こえてきた。
「何でだよ」
「何でって……恥ずかしくて」
「はぁ、恥ずかしいって今更だろ。きみと俺の関係は」
「わー、わー!」
「……」
かわいそうなものを見ているような目で見られる。それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
私とオベロンの関係はいわゆる恋人関係というもので、ハグだって、キスだって、その先だってしているけれど、それでも毎回恋人であることを自覚させられる行為は恥ずかしくて仕方が無い。第一、人類最後のマスターとして自覚が無いんじゃ無いか、そんなことをしている場合じゃないのでは無いか。そう思ってしまうところがあるのだった。
「きみね、いい加減慣れてもらわないと俺としても困るんだけど? と言うより、最初より最近の方が拒絶が酷くなっていないか?」
「そ、それは」
最近の方が拒絶が酷い。それは確かであって、痛いところを突かれたなと思うところも、申し訳ないと思うところもあった。
最初は無理矢理だった。キスも性行為も魔力供給という名のものであって、それであったら仕方が無い、生きるためならそうするしか無い。そう考えて無理矢理及んだ行為でもあった。そこから紆余曲折あって恋人になり、こうした行為を理由なしにすることになってから、それが嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、怖くもあった。だって、オベロンの恋人として自分が釣り合っているかなんて分からなかったから。身体なんて傷だらけで綺麗でも無い。心だって自分と同じ年頃の子達と比べたって摩耗している自覚はある。もう、一般人には戻れない自覚がある。そんな私のことを■してくれているだなんて、そんなこと。
「俺がきみのことを……、どう思っているか気になるって? 俺は全てのことを気持ち悪いって思うようにできてるんだ。それにだって答える必要は無いと思うけど?」
「……!妖精眼!本音を見るのやめてよ!」
「仕方ないだろ、嘘がどうか勝手に見極められるんだ。それとも、俺に目を潰せって言うのかい? 酷いマスターだな」
そう言いながらも抱きしめられる。この行動は言葉と正反対で、それでも言いたいことは伝わってくる。
世界の全てを気持ち悪いということ。それは本当のことだろう。でもオベロンはきっと、その気持ち悪い全てから目を逸らさない。しっかりと目に焼き付けるほどに見て、理解して、それから滅ぼそうとするなり、見なかったことにするなり、他の感情を持ち合わせるなりを選べる。けれど、それでも言葉にするなら全てを気持ち悪いと、そういうことしかできないひとでもある。
ぎゅっと抱きしめる腕にさらに力が込められる。それは今考えていることを肯定しているよう。どこか嬉しそうにしていることからもそれがそういうことなのだと分かる。
「俺にとっては世界全てが気持ち悪いものの塊だと思う。だから今更きみの気持ちとか、その他に考えてる余計なこととかも、その気持ち悪いものの一部なんだ。だから、そこまで考えなくてもいいと思うんだけど?」
「そっか。そう……だよね」
■しているだなんて言われないし、言動だってどこか歪んでいるけれど、それでも大切にされていることだけは分かるから。それだけを信じて、自分を卑下することなんてしないように。そう思ってオベロンに笑顔を向けるのであった。