15、うたたね
落ちる、落ちる。何処までも落ちてゆく。一体いつまで落ちれば底につくのか。それとも、底なんか。そこまで考えて、そうして気がつく。ここは夢なんだと。
夢の中。奈落を落ち続けて、落ち続けて。落ちることによって分かる上になんとなしに手を伸ばしてみたり、下が何処まであるのかを覗こうとしたり。それでも底は見えず、ただただ上に小さな点のような白いものが見えて、手を伸ばし……。
「おい、リツカ。きみは寝ていても騒がしいな?」
「あれ、オベロン?」
あともう少しで点に手を触れさせられる。そう思ったところでオベロンに呼ばれて目を覚ました。
ここは、とぼんやりする頭で辺りを見渡す。時刻は午後九時。場所は自分の部屋。ベッドに寝転がっている自分に対して、その目の前にいるオベロン。確か、と記憶を遡ろうとする。オベロンがいつものように占領しているベッドの横で本を読んでいて、それからの記憶が無い。きっとオベロンを背にしたまま眠ってしまったのだろう。そうして夢を見て……見て?
「オベロン」
「なんだよ」
「あの、夢、見た?」
「夢って?」
「奈落を落ちる夢。それから、光に手を伸ばす夢」
「……」
答えは無い。けれど苦々しげにこちらを睨んでくる。
夢が確かであればだけれど、光の点は召喚の時に出てくる光にそっくりであったし、間違えで無ければ、自分だと思って伸ばしていた左手は黒いもやがかかったようにはっきり見えていなかった。それは、つまり。
「オベロン」
「なんだよ」
「ありがとう」
「……はぁ。まあ、その言葉は受け取っておいておこうか」
ため息と共に掛布を引き寄せられ、背を向けられる。
サーヴァントとマスターが夢を共有する。正しくは、サーヴァントは夢を見ないけれど、マスターのそれに引きずられるように共有することがあるのだが、そうなるためにはお互いを信頼し合っていないといけないことが分かっている。オベロンは普段そんなことを一言も話してくれないけど、信頼していることを真っ直ぐに見せてくれることは無いけれど、それでもこんな形で表してくれるだなんて。
背中から生えた翅が顔に当たってくすぐったさを感じつつ、他のひとより小柄にも感じる痩せた背中を抱きしめて、はにかむのだった。