19、こんな願いも叶えてくれるのでしょ?
学生の頃には放課後にファストフードを一緒に食べに行ったり、カラオケに行ったりすることに憧れていたこともある。そんなこともあっただなんて、今は思うぐらいだけれど。そんなことをオベロンの前で考えていたからなのかな、と今の状況を観察する。
座るには窮屈に感じる小さな机と、足がしっかりとついてしまう椅子。背には硬い板が張り付くように貼られている。目の前には緑色の長い板。真っ白なチョークで書かれているのはなんだろう。明らかに中高生向けの教室の椅子に座って授業を受けている自分と、その隣に座っていたのは学ランを着たオベロンであった。
「なんだよ?」
「何って、こっちの台詞だって。どうしてこんなことに」
「さあね。きみが望んだからじゃないかい?」
「確かに懐かしいとは思ったけどさ」
教科書で顔を隠しつつ隣を睨み付ける。黒板の前に立っている先生にはばれていないのか、それとも授業を真面目に受けているように見えているのか、こちらを向くことはない。それを確認してから話を続ける。
「と言うか、どうして本当に」
「俺が関与しているとでも? きみのくだらない話を聞いてはいたさ。それでもこうやって夢に堕としても仕方ないだろ」
「じゃあ」
「きみが望んでこの状況にしたってわけだ。聖杯とは違うだろうけど、まあ、リツカにとっては良いんじゃないか? 二度と手に入らないって思っていたんだろ? たまにはこんな夢に溺れても良いだろ」
「オベロン、やっぱり……ううん、ありがとう」
西日が廊下を照らしている午後のだるい授業時間。
もう忘れ去っていた。必要ないと思っていたこんな時間を用意してくれたのはオベロンであって。きっと私が欲しいと思えば目が覚めるまでの間は付き合ってくれるだろう。私は放課後に遊びに行きたいというメモを、そんな願いを込めて、くしゃくしゃと丸めて隣の席に投げるのだった。