【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(21~30) - 10/10

30、「きみなんか大嫌いだ」

「きみってば、気をつけることもできないわけ?」

異形の左手は立香の腰に、右手で彼女の目元を押さえる。その手に深々と刺さるは敵の放った槍。ギリギリ貫通しなかったことでマスターの身体は守られたが、またやってしまったと絶望の感情をオベロンはマスターから見たのだった。

 

「オベロン、もう大丈夫?」

「……見て分からないわけ?」

右手をふにふにと握られ、揉み込まれる。全く鬱陶しいと思いつつ、どうしてそんなことをしているのかを理解しているオベロンは、いつものように彼女の部屋のベッドに寝っ転がりつつ、ふあっ、とあくびを一つこぼした。対して目の前の、彼のマスターである藤丸立香は、眉間に皺を寄せつつ、本当に怪我がないかと、強がっていないかと、右手をいつまでも見つめている。そうして、一分、また一分。いつまで経っても本当に飽きないなと言う思いと、いい加減手を離して欲しいという思いから、オベロンは口を開いた。

「きみは本当にサーヴァント想いのマスターだよね。少し見れば完治してるって分かるのに、どうしてそこまで詳しく見れるわけ? 流石に別の意味で穴が開きそうなんだけど」

「ごめん、でも……私が前に出たから」

「それが分かってるんだったら少しは自重しろよ」

「……」

「きみがそんなんだから他の奴らも一緒になって向かってくるんだろ? 裏ボスとしては、本当にうっとうしかったよ」

少しは後ろに下がるなり、他の者に任せてもいい。きみ一人がそうやって無茶をしても仕方が無いだろ。そう言いたいと思っても口が別のことを吐き出す。ああ、もうどうして。

言動全てがねじ曲がる呪いなんて一体誰がかけたんだよと、原因を座に還してやりたいと思いつつマスターの方に視線を向けると、マスターは何かを耐えるように笑顔を浮かべていた。

「~っ、オベロン!」

「……なんだよ」

「ありがとう! オベロンが心配してくれてるの、本当に嬉しい」

「はあ?! 何処をどう聞いたら心配してるように聞こえるんだよ。脳みそを虫にでも食われたのか?」

「そんなことはないよ。と言うか、虫はオベロンでしょ?」

確かに少しは心配していたかもしれない。それでもそんなことが分からないように捻くれたのではなかったのか。それとも我がマスターには全ての出来事が自分に都合良く聞こえる変換器でも入っているのか。全く、ぶっ飛んでいるのもほどがある。

驚き、呆れ、それから少しだけ面白くなる。

オベロンは、それではこの言葉は、この気持ちは分かるか、伝わるのかと、にやりと笑みを浮かべる。それから顔を立香に近づけ、とある言葉を耳打ちしたのだった。