22、ホワイトデー
ハッピーホワイトデー。お菓子ちょうだい!
部屋に入ってきた立香に対し、一瞬頭でもおかしくなったのかと思うけれど、それは残念ながら平常運転。こいつと付き合うことになったことを後悔するが、それすらもいつものこと。
「バレンタインの時に返しただろうが」
「それはそれ、これはこれ」
「それもこれもあるかよ」
思わずため息をつきながら首を掻く。いつか強欲になったじゃないかと言ったが、こいつは元々強欲であつかましいやつだったと認識を改めた。
藤丸立香は異聞帯を進むにつれて、彼女自身を無くしている。心を透明に、と考えていたこと含めてそれは事実なのだろう。だけれど、演じている節もあるが、元来彼女は強欲であり、それを自分だからこそ見せてくることにどこか安心感を持ってしまっていることも事実であった。
「え-。じゃあ、オベロン自身がプレゼント……でも良いよ?」
「何で譲歩したような物言いで言うんだよ、気持ち悪い。そういうのは、ほら。それこそバレンタインデーにいただろ。自分にリボンを巻いてきたやつが」
嘘をつくものを許せない少女を思い出す。竜特性を持つ彼女に近いものを感じつつ、自分とは真逆の彼女が自分の立場だったらこんな立香にどんな言葉をかけるのだろうか。嘘をついていることを許さないのか、それとも悲しい顔をするのか。ただ、オベロンはあいにく素直ではないし、そもそも立香に対してそんな感情を持ち合わせていないと、本人は思っている。それに、そこまで想像したところで、そんな自分も含めて気持ちが悪いという気持ちでいっぱいになったのだ。
「……」
「どうしたの? 変な顔して」
「きみのせいで気持ち悪くなったんだけど、責任取ってくれる?」
「え? 何のこと?」
そんなにプレゼントが欲しいんだったら、プレゼントは俺、をして欲しいんだったらこれでもいいんだろ? そう言いながら立香の腕を掴んで、ベッドへ押し倒す。これはまずい、言い過ぎた。立香がそう思っても後の祭り。オベロンはにやりと笑い、そのまま立香の口に食らいつくように口づけを落としたのだった。