【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(21~30) - 3/10

23、チョコレート

「はぁ……」

思わずため息をつく。理由は簡単で、背に隠したチョコレートをあげたい相手にあげることができなかったからだ。

二月十四日。世間でバレンタインデーと呼ばれる、愛を告げることが許される日。だけど、私が愛を告げることは許されないだろうし、相手も相手なのだから、そういった意味でも許されないのだろう。

 

藤丸立香はバレンタインデーの一週間前から調理室を使って大量のチョコレートを作っていた。それはチョコレートを固めるだけのものもあったけれど、日持ちがしやすいように焼き菓子に練り込むなど工夫がちりばめられていた。一日、また一日と、時間が過ぎていく。甘いものを好まないものにはビターなチョコレート、子供達には甘いものを、マシュやダヴィンチ、ホームズには何を送ろうか。彼女がそう考えていると、ふわりと白い生き物が飛んできた。

「あ、ブランカ。おはよう」

飛んできたのはブランカ。召喚されたオベロンについてきた蚕のような妖精である。その姿を見て、立香は主の姿を探す。

「オベロンはいないのかな?」

「……」

首をかしげるように動かすブランカに、やっぱり何を言っているかは分からないけれど、とりあえず辺りには小さくなったオベロン含めていないんだなと確認する。いなくて、良かった。調理の手を止めてブランカの頭を撫でつつ思わず考えた。

みんなの分はもうすぐできる。人類最後のマスターである藤丸立香がカルデアの皆に渡す分だ。勿論そんな建前が無くても皆受け取ってくれるだろうし、立香にお返しもくれるだろう。立香も皆に感謝の気持ちを伝えたいとは思っている。それでも立香として、ただ一人の女の子として、気持ちを伝えたい相手がいた。

きみも強欲になったじゃないか。そう言って過去にお返しをくれたひと。オベロン。私が好きな人。あのときの笑顔も、あの声も、本当は好きだと伝えたかった自分の気持ちを言わせてくれなかった優しさも、全部が好きなのだ。

立香はブランカをひとしきり撫でると、これを作ろうと思っているのは秘密だからね、とブランカに一つの箱を見せる。ハート型のチョコを入れる容器が並んでいるのが見える、白と青を基調とした箱。チープなものではなく、なるべく高級感があるようなものを探して買ったときに、ダヴィンチからからかわれたのは立香の記憶に新しい。渡す相手なんか分かられているのだろう。彼女からしたら筒抜けなのかもしれないけれど、それがどうしたと思い直して、それでもそれを作るのには勇気がいってしまい、今に至るのだ。

「ブランカ、これってやっぱり……って、えっ、ちょっと?!」

「……」

立香の頭に乗ろうとするブランカ。一瞬慌ててしまったけれど、彼女も何かを考えてなのだろうと、好きにさせる。くすぐったいけれど、立香に何かを伝えようとしている。それは分かるのに、分からない。それが少し悔しい。

結局その日はそのまま夜遅くまでブランカと戯れ、そうしてバレンタイン前日になって箱にチョコレートを入れたのだった。

 

「やっぱり、難しいな」

手元にチョコを持ってきて、再びため息。オベロンの姿を見つけることはできたし、なんだったらほぼ一日中彼の後ろをついて回っているけれど、それでも渡せないそれを見る。いっそのこと作らなければ良かっただなんて、そんなことまで考えて、それから立香は飛び上がった。

「やあ、マスター。今日はどうしたんだい?」

「お、おおお、オベロンさん?!」

「なんだい、そんなに驚いて」

偵察用の暖かそうな服を着ているオベロンが立香の目の前にいた。全く、急に近寄られると驚くというのに。ただそれよりも、手の中に持っていた重さがなくなったことに立香は気がつき、そうして目の前にやってきたオベロンを見る。

オベロンはにやりとしながら立香の持っていた箱を取り上げていたのだった。