26、女の子の日
「っ……!」
いたい、痛い。いやだな、嫌だなあ。
お腹が痛いだけではなく、頭がうまく回らない。これさえなければ痛み止めを飲んで動けるのに。自分の体質を恨む。でもそんなことをしたところで体質が変わるわけでもないし、今日はあらかじめ休んでも良いと言われていたので、布団におとなしく包まった。
「やあ、マスター。今日は一段と気分が良さそうだね」
「……」
鍵は閉めているはずなのに何で、なんてことは言わない。きっとマーリン魔術を使ってやってきただろうオベロンに、ため息すらつけないと布団の中で蠢く。これで通じてくれればいいんだけど、それより布団の中に潜ったことで、その中の惨事に気がついて頭が痛くなった。
「おい、リツカ」
「……」
「何で血の香りがする?」
「……」
そうだった。オベロンはこの時期が初めてなのか。
妖精國で彼を知って好きになったけれど、召喚にはなかなか応えてくれなくて。最近やっと根負けしたように縁を繋いでくれた彼にとっては、妖精國でもこんなことはほとんど無かっただろうから、きっと、おそらく女の子の月に一度のことに出くわすなんて初めてのこと。
心配してくれているのか、それとも怪我をしているとでも思っているのか、どこか怒ったような声に、誤解を解きたくて顔を出す。そのときにまたむわっと臭ったそれに、思ったより近くにいたオベロンは顔をしかめた。
「おい、ダヴィンチは」
「このことは知ってるし、怪我じゃないから大丈夫」
「大丈夫って……、なんだよ、これは」
怪我をしていないか確かめようとしてオベロンがまくり上げたシーツに付いた血。敷布だけじゃなくてそっちにも付いていたんだと思いつつ、リネン担当してくれている職員さんに心の中で頭を下げた。
オベロンはその血を見て、私を見て、それから少し考えるようにしてからため息をつく。何か分かったかのように少しだけ申し訳なさそうにしているところから、聖杯からの知識でも得たのかなと思い、声をかけた。
「オベロン、もしかして?」
「あー、聖杯から余計な知識を今もらったところだよ。まったく、人間ってどうしてこんな風になってるわけ?」
「それは、私に言われても……っ!」
キリキリとした痛みに顔をしかめる。少しだけ紛れた痛みがぶり返し、思い出したかのように暴れ出した。
「っっ……、っ!」
痛い、つらい。やだ。もうこんなの無くなってしまえば良いのに。そこまで考えたところで、オベロンが私のことをのぞき込んで、それでいてつまらなさそうに布団をかけ直してきた。
「生理ってやつだろ? 理解するまでに少し時間はかかったけど、この状態のきみを看病する奴らはいないわけ?」
「私が、遠ざけた」
「迷惑かけたくないから? それとも、自分ならこれぐらい大丈夫だと思ったから? 今のきみは一人でも立てないように見えるけど?」
「……」
何も答えられなくなる。確かにその通り。一人で動けないぐらい今回は特に酷い。それでも私は。
「今ぐらいわがままになったって、誰かに甘えたっていいじゃないか。マスターだとしてもそれぐらいは許されると思うけど?」
「……」
「あ、でも俺にはしないでくれる? そういうことされるだなんて虫唾が走る」
「虫だけに?」
彼は答えない。それでも背中を軽く右手で撫でてくれて、それだけで気持ちが伝わってくるのだった。