27、きみは女の子なんだから
誰もいない舞踏会。曲を奏でる楽器も無ければ、噂話をするご婦人もいない。ただそこにいるのは俺と、それから我らがマスター。
一曲踊らないと修正されない特異点。そんなものが発見されたのは今から何時間も前のこと。何故か王冠をつけた礼装を纏ったマスターがマシュを連れて早々に解決してくると言い、レイシフトしようとした。そこで何故かマシュだけ弾かれてしまったのだった。一応と連れて行かれた他のサーヴァント達も弾かれ、また弾かれ。何故か残ったのが僕だけであり、気がつけば尻だけを上げた無様な姿で潰れているマスターと共に、誰もいない、正確には姿の見えない気配だけのものたちに囲まれた状態で舞踏会の会場にいたのだ。
「ねえ、オベロン」
「何? やっぱりこっち側になりたい、とか言い出さないで欲しいな?」
「う、……言いたいこと分かってるじゃない」
「それは、最初にきみが何しようとしたか見た瞬間、嫌でも分かったらね」
一曲踊らないと修正されない。それぐらいだったら嗜みとしてだって、それ以外のためだって踊れるようにしていたのだから簡単にできる。幸いマスターは女であったし、チェイテピラミッド姫路城だなんてトンチキな特異点の修正なんかもしているのだから、ダンスの経験ぐらいあるだろう。そう思っていた。だけれど、無事に起きて状況を理解したマスターは顔をゆでだこのように真っ赤にしながら手を差し出してきたのだ。
「さあ、どうぞ?」
「は? どうぞっていうのはどっちかって言ったら……おっと、失礼。僕がきみをリードするんじゃないかな?」
「え?」
伸ばされたマスターの手は蝶の翅を羽ばたかせた僕の手を握ろうとしていて、それは男性パートでは と思った。嘘だろ? 確かにマシュを相手にするんだったらきみがそっち側になることもあると思う。だけど、そんなことって。
「きみは、リードされたことはないの?」
「リード……、リード?」
「うん。今の反応で分かったよ。きみはいつも誰かをリードしてたんだね。でも今日はこっち」
引っ張られた腕を引っ張り返して腕の中におさめる。すると、赤かった頬がさらに赤くなり、胸を叩かれる。なんだい、痛いなあ。
音楽を奏でるものなんかいないから曲は即興、鼻歌で。一歩、また一歩とリズムを取ると踏まれる足。全く情緒もダンスの心得もないだなんてきみは。そんなことを思いながら男役しか覚えていない女の子と踊り始めるのだった。